螺旋杖
その杖は、とても美しい。
先端に嵌め込まれた大きなクリスタル。
それを支えるのは三本の螺旋状の支え。
支柱は敢えて枝の歪みを残した作りではあるものの、持ち手とクリスタルは寸分の狂いもなく直線上にあり、持ち手には風雷の魔石、エメラルド、サファイヤ。
その宝石も又、螺旋を描くように埋め込まれている。
丁寧に削り出された木材は、魔力の散逸を防ぐ漆黒の漆に包まれる。
エンダーベルト随一の魔法武具職人、アンナ・ヘリントスが手掛けた逸品。
――― 螺旋杖。
オーダーメイドの武器。
全ての冒険者の憧れ。
それを今、シャアリィは手にした。
驚くべきは、その軽さと完璧な設計。
僅かな支柱の歪みこそが、この杖を完璧なものに見せていることに気付ける者がどれ程いるだろうか。
「支払いは現金?小切手でもいい?」
問われたアンナは眠たげに、
「どちらでもいいよ」
「久しぶりに納得出来る物を作れて、ほっとしたら、眠くなった」
「今日は、もう何もしたくないね」
「食事もパスだ」
寝室に向かうアンナにシャアリィは飛び跳ねながら礼を言う。
「めっちゃ嬉しい!」
「ありがとうアンナ」
シャアリィの喜び様を見れば、アイシャも嬉しくなる。
その視線の先には、今日までシャアリィと共にあったワンド。
酷くちっぽけな、何処にでも売っていそうな何の変哲もないワンド。
だが、このワンドが幾度の死線を越えてきたものであることは間違いない。
アイシャは、ベルトホルスターに刺さったままのワンドを撫でて、
「今日までありがとう」
「シャアリィを守ってくれて・・・」
そんな感傷的なことを口にした。
それに気付いたシャアリィも又、ホルスターからワンドを抜き持って額に当てる。
所々に小さな傷が無数についた五十センチ程の小さな武具。
そこから放たれた驚異的な術式の数々。
「きみは自由だよ」
「私の分身なら、願うことはわかっている」
「使われないまま忘れ去られたり、知らない誰かに使われたくはないよね?」
「きみも又、私と同じ・・・戦いの中でしか生きられない」
「だから、私が・・・」
シャアリィは工房に行き、大量の木屑を集めて持ってくると、ワンドを握り閉め庭に出た。
それを敷き詰めてベッドを作り、ワンドを寝かせると、上からジンを注いでファイヤー・スターターで火を点ける。
一瞬のうちに燃え上がる炎。
パキパキと音を立てて反り返り、炎に焼かれるワンド。
「こうするって決めてたんだ」
「私だけの宝物だもの」
「でも、ちょっと寂しいよ・・・ありがとう」
シャアリィの金色の瞳に炎のゆらめきが映る。
「いずれ、私も行くからね?」
「それまで自由にするといいよ」
一筋だけ流れた涙が、愛用の武具との決別の証。




