冒険再開
年末年始の十日間、たっぷりと休養出来た三人は、今日から各々の仕事に復帰する。
とは言え、夜型のアンナは、シャアリィとアイシャを見送った後、ベッドに潜り込んだ。
「相変わらずだな」
「相変わらずだね」
邸宅の扉を閉めて、合鍵で施錠する。
現状アイシャのレベルは百五十九。
エンダーベルトでのレベル上げは、百七十にするか、百八十にするか、悩む所だ。
恐らく、この場所よりも二人のレベル上げに適した場所はないだろう。
それを考えれば、滞在期間を延長して、あと五ヶ月。
六月まで、この島で過ごす方が良いだろう。
あと二週間もすれば、シャアリィの新しい杖も完成する。
そうなれば、多少、レベルアップも加速するのではないかと、楽観的な見立ても出来る。
冒険者ギルドでは、週に一度持ち込まれる特級魔石によって特需が生まれていた。
新たな大型住居、施設の建築が進み、道路の舗装や区画整理等も重なる。
結果、魔石の需要は増え、売却価格が上昇、冒険者はその恩恵を受ける。
とは言え、負の側面もちらほらとある。
混みあう通常ゴーレムの狩場から、足を延ばし、上級に挑んだ挙句の死亡事故。
パーティ同士の狩場の取り合いや、揉め事も増えた。
それは、どんな場所でも起きることであり、エンダーベルトが特別という訳ではない。
むしろ、今までそういう問題が起きなかった方が珍しい。
それ程までにエンダーベルトは、ゴーレムという資源が豊かな場所なのだ。
新しい試みには新しい失敗はつきもの。
巨像島が込み合う中、ローマン島のエンダーベルト迷宮に挑戦するような者も増えた。
何処から流れてくるのか、エンダーベルトの冒険者人口は増加している。
・・・
随分と昔から貼られている迷宮踏破のクエスト案内。
そこに書かれている内容に、シャアリィが飛びついた。
『踏破者には、エンダーベルト迷宮魔石売り上げの二パーセント、巨像島の魔石売り上げの一パーセントが踏破年金として与えられる』
だが、アイシャは首を横に振る。
「私達は、ただでさえ目立つんだからね」
「特級の魔石だけでも、相当に人目を引く」
「その私達が踏破に向かって動いたら・・・」
「悪意の標的になるのは目に見えているでしょう?」
「それにね・・・マッピングっていうのは、すごく時間が掛かる」
「六層が終わりだって確定してるわけでもない」
「この諸島群の魔物の活性密度からすれば、ザグレブホーンみたいなことだってあるかもよ?」
終わりのない迷宮・・・。
「そうだね、踏破は諦めよう!」
「スパっと決めた方が集中出来るし」
「私達の目的は、あくまでレベル上げだもんね」
シャアリィの気持ちもわからなくはない。
ずっと同じルーティンワークは、知らず知らずのうちに心を擦り減らすものだ。
それも二つの季節を跨いで続けるような長期間であれば、尚更。
アイシャは提案する。
「ここでの狩りが終わったなら、フェザーエリスか、イルオールドで休暇を取りましょう」
「さすがにずっと働き続けてたら、おかしくなる」
「本当はいますぐにでも、長期休暇を取るべきかも知れないけれどね」
「年末年始は休めたことだし、もう少しの間だけ頑張ろう?」
シャアリィは、その提案に喜ぶ。
イルオールドならば、『黒猫テラス』の姉妹店もある。
観光地はあらかた回ってしまったけれど、まだ、見ていないものだってあるだろう。
人間には、やはり、目先のことだけじゃなくて、少し先にある希望も必要だ。
そうでなければ、どうしても心が錆びついてしまう。
もうすぐ、船着場に何時もの船がやってくる。
顔見知りばかりになった船。
最近では恋文を貰うことも屡々(しばしば)。
――― 皆、希望が欲しいのだろう。




