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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
330/395

年末、アンナの工房にて

旧世界の人類が最も信仰していた神の子の誕生日。

それが十二月二十五日らしい。

とは、言うものの、今の教会にすれば旧人類の宗教は邪教もいい所。

それに神というものは果たして生まれるものなのか、という、疑問もある。

今となっては、どんな宗教で、どんな教義なのか、詳しく知ることは出来ない。

旧世界の宗教関係の書物は、殆どが封印指定図書。


今の世界の神には、名前もなく、ただ『神という存在』があって、時に善行を為した者に褒美を与え、悪行に染まった者に罰を下すという、ぼんやりとした教え。

死んだ者の魂は、善悪の天秤によって、天国に行くか、地獄に墜ちるか。

そして本来ならば、地獄に墜ちる魂さえも、神の使徒たる教会に施しをするならば、その報いが軽減されるという。


安息日。

アンナは例のスパイス・スープの改良版を作り、シャアリィとアイシャは年末年始用の食材やお菓子の買い込みに市場に出る。

ついでとばかりに、別行動の時間を作って、お互いのプレゼントを選び、両手いっぱいの荷物を抱えてアンナの工房に戻った。


「去年の今頃って何してたっけ?」


シャアリィがアイシャに問うと、


「だらだらしてたじゃない」

「ファイヤー亭やら、黒猫テラスやら、宿やらで」

「食べるものがなくなりそうだったら、カードで勝負」

「あと、あれよ・・・領主邸の焼き討ちやら、で年始は騒がしかった」


そっか、と、シャアリィは納得し、


「今年も、結構、死にそうになったねぇ」


と、へらへら笑いながら、アイシャのしっぽを構う。

スパイスの良い香りがキッチンから漂い始めて、


「何か手伝うことあるー?」


と、シャアリィが言えば、アイシャは立ち上がって、キッチンに向かう。


「野菜刻んでサラダ作って」

「あと、今日はライスも焚いてあるんだ」

「ピクルスを切っておいて・・・それと、テーブルを片付けて・・・」

「チキンのローストは・・・私がやるか」


アンナが細々した指示を出す。

シャアリィは、何時も、アイシャやアンナに感心する。

よく、一つのことをやりながら、他のことを考えられるな、と。

シャアリィは少しばかり、同時進行というのが苦手なのだ。


・・・


「おお、今回のスパイス・スープは、辛さ控え目だね」

「それでいて、味に深みがある・・・さすが武具職人」


シャアリィの感想を聞いて、アンナはご満悦だ。


「食材を細かく刻む魔具を買ったからね」

「随分と時間短縮も出来るし、今回のスープは玉ねぎのエキスがたっぷりなんだ」

「スパイスとの相性抜群、甘味も出ていい感じに仕上がる」


成程とアイシャの耳としっぽが上機嫌を示す。


「咽る程ではないけれど、ちゃんと辛さも残っているし」

「これは随分と腕を上げたね」


食事が一通り終わり、デザートと酒の時間。

シャアリィが寝室から二つの包みを持ってきた。


「えっと、こっちがアンナで」

「こっちがアイシャの」

「今年一年の感謝を込めてプレゼントですよ」


次は、アイシャが寝室へと向かい同じように包みを二つ持ってくる。


「私からは、これがアンナの分」

「こっちがシャアリィ」

「こういうの慣れてなくて、おかしなものだったらごめん」


アンナは戸惑う。


「えっ、私、何にも用意してないよ?」

「先に言ってくれたら、何か用意しておいたのに・・・」


シャアリィとアイシャが笑う。


「アンナはもう、いっぱい、私達にくれてるじゃん」

「こんな美味しい料理も、こうやって帰れる場所も」

「それに今は私の杖も作ってくれてる」


アンナは、そう言われて、両手で顔を覆う。


「そっか、そんなんでいいのか」

「じゃあ、遠慮なく、貰うよ」


大事そうに二つの包みを抱えてアンナが涙ぐむ。


(こういうの忘れてたな)

(ありがとう、アイシャ、シャアリィ)


アンナは、少しばかり涙が出たが、スパイスの辛さにあてられたことにした。


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