歩み続ける
シャアリィとアイシャは安全な場所を探すべく、来た道を少し戻った。
魔物の密度が薄くなる場所・・・それは、地質の境界付近。
但し、絶対ではない。
休息は取れるだろうが、野営となれば恐らく不可能だろう。
それ以前に、上級ならまだしも、特級と夜間戦闘なんて、ゾッとする所ではない。
上級に早い段階で見切りをつけたのが幸いし、まだ、狩りの時間は十分にある。
問題は二つ、アイシャの体力消耗とシャアリィの魔力消耗。
この島の狩りの良い所は、経験値は勿論だが、魔物の群れに飛び込みでもしない限り、魔物に囲まれるようなことがないということ。
それは即ち、どんな場合でも離脱するくらいならば容易であることを意味する。
戦闘が出来ない状態であれば、逃げればいいのだ。
・・・
十分な休息を挟んで、シャアリィとアイシャが狩った特級ゴーレムは五体。
当初予想していたよりも、かなり良いペースで狩れることに二人は喜んだ。
但し、これだけの数を仕留めるには、ロック・ゴーレムだけは避ける必要がある。
兎に角、コラプションが通り難いのは、かなりの苦痛を強いられる。
狩りの途中で、ターゲットを二つ惹いてしまった場合も厄介だった。
せっかく削った魔物を置き去りにして、一度、退避を余技なくされる。
それ以外には、取り立てて不便はない。
三日でアイシャのレベルがひとつ上がるならば、収入を度外視しても、特級を狩るべき。
斬撃耐性のある相手、つまりは苦手な相手と戦う為に経験値が余分に入るのだろう。
百三十を超えたばかりのシャアリィは、ここでの狩りを満足に終えた頃には、アイシャとのレベル差がほぼなくなるかも知れない。
「さて、帰ろうか」
「週のうち五日をここで過ごせば、まぁ、毎週レベルアップだね」
「ちょっと長い滞在になるかもだけど」
アイシャが帰路の途中でシャアリィの顔色を伺う。
「他で狩るより、全然、条件もいいし」
「私は平気」
「週に二日ものんびり出来てレベルアップも出来るなんてサイコーじゃない?」
グリーンノウズでレベル上げすることを考えれば、何から何まで条件が違う。
魔石による収入もあるし、駆け引きをするようなこともない。
『黒猫のテラス』程ではないにしても、お気に入りに出来そうなカフェもある。
不満があるとすれば、週五日は質素な料理で我慢しなければならないことくらい。
それでも、身体を休めるベッドがあるのだから、問題ではない。
・・・
その頃、アンナはシャアリィの杖の設計に入っていた。
貫通力特化の杖。
言葉にするのは容易いが具現化するとなれば、繊細な設計が要求される。
神木から削り出した三本の細い木材を螺旋状に束ね、中心のクリスタルに魔力を送り込む構造。
そこまでは最初から考えていたことだが、その細い木材のバランスが至難。
長さも、重さも、均一にする必要がある。
そして留め具についても、シャアリィの魔力を考えれば相当な強度が必要だ。
持ち手側には風雷の魔石とエメラルドを使い、出力を向上させる。
中間地点の留め具にサファイヤを用いて、シャアリィの基本属性である氷結魔力の底上げ。
シャアリィが大富豪ならば、大粒の金剛石一つで解決する問題だが、設計を満たす金剛石を買い求めるなら、聖金貨十枚を要するだろう。
武具に付ける宝石というのは、最悪の場合、破損するもの。
そんなものに聖金貨十枚を使えるのは、教会の枢機卿くらいだろう。
「ドラゴン・スレイヤーかぁ」
「実に夢のある話なんだけど、聞くのとやるのでは大違いだろうねぇ」
設計が一段落し、一人だけの工房のソファで、一人だけの乾杯。
「しかし、よく、あんな量産品の杖で名有りと戦ってきたもんだよ」
「正直、ドン引き」
くすくすと笑うアンナ。
思えば、こんなに誰かと関わったことなど、もう、十年も前の話。
冒険者だった両親が死に、婚約者に見放され、叔父に拾われた頃。
その叔父も又、不治の病に倒れて五年。
全くの素人からここまで辿り着いたのは、幸運か不運か。
人嫌いの根性曲がりになった所で、結局、心の根っこでは誰かの善意に期待している弱い人間。
だからこそ、あの二人のような燃え上がる魂に憧れる。
自分がもしも、彼女達の力になれるならば、きっと、それは生涯誇れる仕事だと。
微睡に落ちる刹那、窓から見上げた月は、何時もより綺麗だった。




