特級ロック・ゴーレム
上級の強さが掴めた所で、アイシャがシャアリィに提案する。
「このまま中心部まで行こう」
「特級との対戦だ」
「首尾次第で、上級を狩るか、特級を狩るかを見極めよう」
シャアリィに異存はない。
「時間は有限、だね?」
「そうしよう」
ナップサックの隙間に、アイシャが魔石を捻じ入れ、再び行軍が始まる。
見渡せば、そこかしこに上級ゴーレムは、うようよといる。
余所見をして歩けば、いきなりゴーレムにぶん殴られかねない。
これ程の密度では、アイシャの索敵も厳しい。
「まさに敵陣・・・だね」
「範囲内に魔物が多過ぎるから、索敵するまでもない、というか、索敵が機能していないから、目視だけの判断になるよ」
「突然のポップに気を付けよう」
ポップとは、迷宮内では良く起きる現象だ。
迷宮の魔力で生成された魔物が出現することを指す。
突然、すぐ傍にポップされれば、弱小な魔物であっても危険なアクシデントとなる。
この島では、空中に突然ポップするようなことはない為に、多少はマシだ。
だが、足元が突然盛り上がりゴーレムが出現したならば、やはり危険なことに変わりない。
中心部に向かって歩くうちに、土の大地が徐々に砂利に、そして岩場へと変化する。
このフィールドでは、土石属性がかなり強く戦闘に影響するのは間違いないだろう。
そして、土石属性のゴーレムも又、外郭のような草原エリアより、力を増すことも推測できる。
二人が歩く十メートル先、ガラガラと音を立てて岩が一か所に集まってくる。
その奇怪な現象は勿論、ゴーレムのポップだ。
否、ポップというよりも、回復のために身体を分解していたのかも知れない。
荷物を降ろす暇もなく、組みあがっていくロック・ゴーレムを前に、二人は慌てて放り捨てるようにナップサックを降ろす。
先んじて動かねばならないとばかりに、アイシャが組みあがる最中のゴーレムの部品を彗星棍で弾き飛ばす。
その行為が何の意味もないように、次の瞬間には頭部の窪みから黄色の光が二つ。
特級ゴーレムがシャアリィとアイシャの前に顕現。
その威圧感は、あの『彫像』にも匹敵する程に濃い。
腕をぐるぐると回し、頭部を少しだけ揺らした後、大地に一歩を踏みしめる。
その足元から、岩の破片が飛び散る。
この場所で戦う難しさ、今、二人はそれを理解した。
歩くだけでも攻撃・・・特級ゴーレム。
『ごおっ』と、音を立てて、ゴーレムの右腕がアイシャに迫る。
アイシャは後ろに飛び退き、それを避ける。
目の前を通り過ぎる風の風圧で、前髪が大きく揺れた。
「シャアリィ、こいつは掠っただけで大変なことになるぞ」
危険をシャアリィに告げるアイシャの顔は、その言葉とは裏腹に嗤っている。
深緑の瞳の目尻を吊り上げて、威嚇のように叫びを上げ、敵の懐に入って脳天に一撃を浴びせる。
当然の如く、ゴーレムから反撃の左拳が叩きつけられるが、アイシャは踊るように躱す。
アイシャに向かって歩を進めるゴーレムの股関節を破壊すべく、シャアリィがアイス・ランスを叩き込む。
正面からはアイシャがウインド・ブラストを詠唱。
シャアリィのダメージ・ディールでターゲットが変わるのを防ぐ。
「俊足を!」
シャアリィは、自らにファントム・ムーブを使い、ロック・ゴーレムの足元に辿り着くと、必殺の一撃を見舞う。
「腐れ!」
ゴーレムの腐敗の様子を見守ることもないままに、シャアリィは素早く退避。
直後、ギシギシと身体を軋ませて、ロック・ゴーレムは膝を折る。
しかし、様子がおかしい。
関節の隙間から、岩の破片がごろごろと零れ落ちるものの、ただ、それだけ。
何時ものような派手な崩壊が起きない。
「コラプションが効かないのか?」
アイシャの絶句に近い呟きに答えるようにゴーレムが立ち上がる。
シャアリィは、直感で理解する。
「コラプションは効いているよ」
「相性が悪すぎる・・・石は金属より腐り難いんだ」
そういうことか、と、アイシャは戦術を変更した。
「シャアリィ、まずは片脚を潰そう」
「私はゴーレムの間合いには迂闊に入れない」
「右でも、左でも、いい」
「集中砲火で、移動能力を奪ってからコラプションだ」
了解という返事の代わりに、シャアリィはゴーレムの右脚目掛けてアイス・ウォールを放つ。
甲高い氷結音と共にゴーレムの右足が固まる。
「貫け!」
氷結部のすぐ上にアース・ランスをぶつけ、さらにストーン・バレットの三連撃。
腕や胴に比べ太く短いゴーレムの脚から、ぼろぼろと岩の破片が飛散する。
アイシャも又、彗星棍をシャアリィの術式攻撃に重ねるように叩き込む。
巨木を斧で削るかのような集中攻撃。
ゴーレムの氷結が解ければ、又、アイス・ウォールによる足留め。
繰り返す都度、四度。
ゴーレムの右脚の破壊に成功する。
脚の代わりに身体を支えるべく、右腕を使うゴーレム。
その背中越し、視界の外から触れられ、放たれる更なる腐敗。
その身体の中で最も細い、右の二の腕が崩壊する。
こうなれば、もう右側への物理攻撃は出来ない。
見えない首を捩じり、右側から攻撃を続ける二人に術式を浴びせようとしても、それは悉くシャアリィのジャミングによって阻止される。
だが、恐るべき耐久力、そして魔力。
シャアリィは慌てて魔力回復剤を喉に流し込む。
今は、チョコレートを口に入れる余裕さえない。
苦々しい味が口内を蹂躙するが、涙目になりながら耐えるしかない。
天を仰ぐゴーレムの胸に叩きつけられる三節棍、そして三度目のコラプション。
シャアリィの魔力の残存が二割を切った時、やっとゴーレムが沈黙する。
黄色く光っていた双眸が消え、アイシャがその頭部を破壊し尽くす。
シャアリィの総魔力の六割をつぎ込み、戦闘時間は一時間弱。
アイシャが今の戦闘で得た経験値に驚愕する。
「こいつを十五体も狩れば、レベルが上がるらしい」
勿論、シャアリィは、今の戦闘でレベルが上がった。
「だろうね・・・疲れた・・・安全な場所を探そう」
「その前に・・・」
今更ながら、チョコレートを口に放り込んだ。




