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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
323/396

聖職者の思惑

シャアリィに引っ張ってこられたのは、紛れもなくロザリー本人だった。

シャアリィよりも視力が良いはずのアイシャが気付かなかった理由。

今日のロザリーは、聖衣ではなく、私服。

そして髪も三つ編みではなく、このリゾートに溶け込むように降ろしている。

間近で見ても、本物かと疑う程の変化にアイシャは驚いた。


「よく私がわかったね?」


と、ロザリーがシャアリィに問う。

シャアリィは、


「普通にわかったよ?」

「で、北の果てにいるはずのロザリーが、なんで、こんな南の果てに?」

「当然、偶然ではないよねぇ?」


と、疑いの視線を向けた。

席がもう一つ必要になったので、四人掛けテーブルに移動する。

ロザリーが溜息交じりにオーダー。


「麦酒をグラスで」


アイシャは、初めて見る私服のロザリーを眺めてから、


「イザベラからの贈り物でも袖を通さないと言っていたロザリーにこんな服を着せることが出来るのは、一人だろう」


と、答えの半分を言い当てる。

ロザリーは観念して残りの答えを自白する。


「依頼主は、想像通りの方だよ・・・ベネディクト卿」

「私の仕事は二つだね」

「一つは『巨人の骸』の魔石に封印されている術式を確認すること」

「もう一つは『廃棄の王』の魔石の消息」

「二人への接触は、もっと後にするはずだったんだが、仕方ないね」


アイシャは一瞬だけ怯んだが、当然に用意していた解答を教える。


「『巨人の骸』の魔石に封印されている術式は、私達も知らない」

「水属性か、或いは暗影属性で、それ程、価値のある術式ではない、という予想だけはしている」

「『廃棄の王』の魔石は、既に存在しないよ」

「シャアリィが瀕死の重傷を負う程の激戦だったからね」

「私も無我夢中だったんだ・・・力余って魔石は破壊してしまった」

「『巨人の骸』の魔石については、そのうち情報が更新されるだろう」


ロザリーは、アイシャの口からそれを聞いたことで納得したようだ。


「前回、『三日月』の時、持ち帰った魔石が役に立たなかったからね」

「ベネディクト卿は、今回のオークションにとても関心を示している」

「それに討伐不能と思われていた『廃棄の王』が、倒されたことにも」

「アレは上級術式を使う魔人故に、最低でも上級、あわよくば特級の術式が封印されていただろうに・・」

「これを報告すれば、お嘆きになることだろうね」


ロザリーが口にした『特級』という響きが、アイシャに一つの不安を与えた。

何故、アレクサンドルは、そんな貴重なものを自分たちに渡したのか。

その思惑が少しづつ見えてきた。


売却という選択肢は絶たれている。

そんなものの出所は、現時点で一つしかないのだ。

冒険者ギルドの規定に反して、その権利を総取りしてしまったことが大きな選択ミスに繋がってしまったということになる。

最早、『廃棄の王』の魔石はシャアリィか、アイシャが使うしかない。

取り込んでしまえば、証拠は残らないのだから。


だが、少なくとも、フランコとアレクサンドルは、事実を知っている。

・・・つまり、魔石ひとつで二人の立場は既に絡め捕られているのだ。


教会同士が争った場合、シャアリィとアイシャの立場は西方大教会。

勿論、何処かに属さなければならないなら、西方で構わない。

しかし、好む好まざるを選択する余地はなく、求められれば従うしかなくなった。


なんという謀略。


「・・・アイシャ」

「アイシャ、どうしたの?」


シャアリィが心配そうな顔で呼び掛ける。

ほんの僅かな時間だが、深く自分の思考に入り込んでいたアイシャの意識が浮上する。


「ああ、ロザリーも大変だなってね」

「せっかくだから、夕食でもどうかな?」

「私達、今日の予定はないんだ」


ロザリーは喜んだが、首を横に振って、


「残念だけど、すぐに西に行くね」

「準備をしなくちゃらないから、又、次の機会に」

「一日も早く、『巨人の骸』の情報だけでも持ち帰らなくては、ね」

「会えてよかったよ」


そう言えば、と、アイシャは別れ際に、


「リーシャの件、本当にありがとう」

「今、こうしていられるのは、ロザリーのお蔭だ」

「又、何時か、何処かで」


言いそびれていた礼を言えただけでも、良かった。

そう思わなければ、気持ちが落ち着かないアイシャだった。


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