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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
319/396

アンナの頼み五

アンナが現在、抱えている仕事は四つ。

教会からのオーダーが一つ、残りは領主府からのもの。

二つに関しては既に完成の目途が立っており、残り二つのうち、一つは手付かず。

その理由が材料の調達。


アンナの邸宅の掃除は随分と捗った。

生活魔具という便利アイテムのおかげだ。


洗濯機、食器洗浄機、衣類乾燥機、掃除機、熱調理機、芝刈り機、湯沸かし器、空調機まで揃えて、みるみるうちに快適になった。

既にあの魔境は存在しない、と、言いたい所だが、機械にも限界はある。

書斎だけは、やはり、散らかるのだ。

しかし、本というものは、魔石を用いた生活魔具よりも、遥かに高価で貴重なもの。

そして持っているだけで所有欲も満たされるのだから、それを解決するのは難しい。


「んで、ご所望の材料は?」


と、シャアリィがアンナに問う。


「真っ先に口にした通り、タウロスの角とラミアの鱗」

「あとはスネーク類かリザードの皮、アラクネの爪先を三つ程」

「それと・・・小さなもので構わないから風の魔石もあると嬉しいね」

「職人ギルドへの売却査定と同じ額で買い取らせてくれ」

「舟賃は立替えておいてくれたら、あとで精算するよ」


シャアリィとアイシャにしてみれば、それならば文句はない。

どのみち、素材の売り先は職人ギルドなのだし、安値で買い叩かれる心配もない。

問題は、タウロスの角が嵩張り過ぎることくらいだ。

まぁ、二回も足を運べば、それも事足りる。


了解した、と、アイシャが手短に返答し、ローマン島に向かう舟を探す。

どうやら、定期便のようなものはなく、フリーの船頭に依頼するしかないらしい。

この島の周辺では、セイレーンは既に絶滅しており、手漕ぎボートでも島に渡るのに苦労はない。

ローマン島は近いこともあり、行きは二艘の手漕ぎボートで渡り、島に一艘を残す。

帰りは自力でボートを漕いで帰る。

よって行きの舟賃と借りるボートの保証金、ボートの借用代金が掛かる。

巨像島であれば、現地に滞在する船頭がいる為、保証金やボートの賃料は必要ないが、客足の少ないローマン島や、巨像島以外の諸島に向かうには、この方法が一般的らしい。

そういう面でも、やはり巨像島が人気なのだろう、と、アイシャは思った。


初めて入る迷宮。

シャアリィとアイシャは、一度、冒険者ギルドに立ち寄り、ギルド発行の迷宮地図を手に入れた。

六枚一組の迷宮地図は、四層目からちらほらと未踏破領域があり、その空白に、シャアリィが興味を示す。

だが、今回はあくまでオーダーされた素材の採集が目的。

そして、その後も、巨像島でのレベル上げが目的なのだから、ローマン島のエンダーベルト迷宮の踏破は二の次、三の次、否、目的外。


現地について二人が思ったのは、冒険者があまり来ない割には環境が整備されていること。

船着場には、ちゃんとボートの係留設備があり、高波対策もされている。

それに原生林を通る迷宮までの道も、人が歩いて行ける程には慣らされている。


アイシャがシャアリィに告げる。


「罠の印は少ないけれど、潜ってみなければアテにならない」

「私が先行、シャアリィは後方を警戒してね」

「浅い層でリザードマンやスネークに遭遇すると思うから、最初から気を抜かずに」

「どんなにちっぽけな迷宮でも、そこは私達の知らない世界」

「慎重に行きましょう」


勿論、シャアリィも理解している。

アーシアンでルーキーをしていた頃とは、覚悟も違う。

迷宮を舐めて掛かれば簡単に命を落とすと、グリーンノウズで十分に味わった。

敵は魔物だけじゃない、と。


「了解」


と、短く返答し、ホルダーに刺したダガーとワンドを確認する。


人の出入りがどれくらい途絶えているのか、わからないが、狭い侵入通路に入った瞬間に、この迷宮の活性はかなり高いと二人は肌で感じた。


それは迷宮の通路に満ちる仄かな灯りでも分かる。

一層から十分な光量があり、不燃カンテラを出す必要もない。

最初の玄室から、当たりを引く。


「リザードマン、当たりだ」


と、アイシャが嗤い、シャアリィも又、ふふっと幸先の良いスタートに声を漏らした。

皮を持ち帰ることを考え、普段ならあまりやらない頭部への攻撃をアイシャが選択する。

それを見ていたシャアリィも、背中になるべく傷を入れないように弱い術式を選ぶ。

四匹のリザードマンを仕留めるまでに僅か二分。


「ここからが面倒だね」

「丁寧にリザードの皮を剥ぎ取るなんて、やったことがない」

「シャアリィ、ちょっと時間が掛かるから、周囲の警戒を頼む」


と、アイシャに言われたシャアリィが、


「わかったよ」


と、応じ、暫く無言で、作業と警戒を続けた。


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