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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
315/408

アンナの頼み一

――― 武具職人の朝は早い。


と、思ったら、アンナは今から寝るらしい。

午前九時・・・だぞ、と、アイシャはまず、その昼夜逆転っぷりに呆れる。

この世界の夜更かしといえば、星見か夜伽くらいしか楽しみはないだろう。

独身のアンナには、どちらも無縁と思われる。


「シャアリィはバスルーム、私は書斎」


と、分担を割り振り、アンナのリクエストをこなす。

シャアリィを一人で書斎に放っておけば、片付けるどころか書物を読み漁り、仕事が進まないのは明白。

そう考えたアイシャにしても、書物があれば読みたくなったが、そこは我慢した。

幸いなことに工学や数学に関する書物が多く、それらはアイシャの興味をあまり(そそ)らなかったが、魔石に関する書物は別。

片付けが終わったなら、アンナの許可を得て閲覧したいと思った。


さっき寝始めたばかりのアンナの昼食は必要ないだろう。

シャアリィとアイシャは片付けを終えると市場に買い出しに出掛けた。

雑多に並ぶ露店の数々は、見て歩いているだけでも楽しい。

当然ながら、高級商店街のような馬鹿げた価格でもなく、レリットランスやイルオールドと物価は左程変わらないことに安堵する。


だが、ある一角は別だ。

それは生活用の魔具の販売店。

露店ではなく、しっかりとした店構え。

置かれている商品は、随分と面白いモノが並んでいる。


『髪の毛を温かい風で乾かす魔具』(炎と風の魔石使用)・・・金貨一枚。

『水と洗剤を入れて自動で衣服を洗う魔具』(水の魔石使用)・・・金貨二枚。

『お湯を沸かす魔具』(炎の魔石使用)・・・金貨一枚。


値段は高いが、どれも十年以上使えるらしい。

使用方法から故障の際の修理解説まで付属している。


二人がもしも、定住者であったならば、どれもこれも欲しくなる品々。

だが、旅をする身には持ち運びに難がある。

全てが終わったならば、ここにもう一度来ることになるのは、間違いないだろう。


シャアリィとアイシャは、露店のホットドッグで昼食を済ませ、夕食の買い出しをすることにした。

アンナの好みは聞いていないが、それは問題ではない。

嫌なら食べるな、の、一言で済ますつもりだ。


「今日は、何にしようか?」

「アイシャはどんなものが食べたい?」


と、シャアリィに問われれば、アイシャもどうしようか、と、悩む。

今しがた食事をしたばかりで、食事のことを考えるのは難しいものだ。

というよりも、アンナとの最初の食事であることを考えれば、無難に外食にするほうが楽だろう。


「お菓子だけ適当に買って帰ろう」

「アンナとの最初の食事だから、揃って外食でいいんじゃないかな」


シャアリィもアイシャの意見に頷く。


「じゃあ、まずはアイスクリームだ」


人混みの中を歩けば、熱気にあてられて冷たいものが欲しくなる。

シャアリィの見つけたアイスクリームの露店は、そんな気分を叶えるのに十分。


「ばなな・・・って何?」


他の街で見かけなかったアイスクリームにシャアリィが反応する。

店の主人が、シャアリィに笑い掛けながら、


「これですよ」


と、房なりの黄色い果実を見せた。

その果実はちょっと癖のある匂いだが、甘いことはその匂いから分かる。


「じゃあ、私はバナナにチョコが入ったやつで」


と、オーダーを決めると、アイシャは無難に、


「私はバニラとイチゴのミックスを」


小さな噴水の脇にあるベンチに座り、いつも通り、分け合って食べる。

独特の果実臭は南国を思わせるが、口に入れてしまえば気にならなかった。


「ふむふむ・・・まぁ、悪くはないって感じ?」

「でも、この前食べたミントの方が私は好きかな」


と、シャアリィが言えば、アイシャも、


「私は、ちょっと苦手な匂いだね」

「ミント程じゃないけれど、やっぱ私は普通のやつでいい」


少しばかり陽が傾き始めた頃、二人は結局、手ぶらでアンナの工房に帰った。

工房の主はまだ眠っている。

陽が暮れた頃に起こせばいい、と、二人は揃って書斎に。


本を読んでいれば、時間はあっとういう間に過ぎた。


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