他所へ行け
北の外れ。
そこにあったのは、何の変哲もない普通の民家。
「見落としたかな」
と、アイシャは少し戻って道の左右をきょろきょろと眺める。
鍛冶屋、木材問屋、風呂屋、革細工工房・・・鍛冶屋も革細工工房も武具を扱ってはいるが、二人が探し求めている術式使い用の武具屋ではない。
シャアリィが革細工工房を指差し、
「あそこで聞いてみよう」
と、言ったのでアイシャも、そうしようか、と、同意した。
休憩時間なのか、中でお茶を飲んでいる老職人に尋ねる。
「すみません、ヘリントスさんの工房は、どちらかご存じですか?」
と、シャアリィが尋ねると、老職人は威勢の良い声で返す。
「またヘリントスの客かい」
「看板くらいあげとけってんだ」
「この並びの隅の家だよ」
「わかりにくいだろ?」
その言葉に怒気はなく、何処か同情の念がある。
「腕は立つが、きまぐれ、根性曲がり」
「なかなか厄介な奴だから、気をつけな」
そうアドバイスしてくれた老職人にアイシャが礼を述べる。
「ご休憩中に申し訳ありませんでした」
「ご忠告感謝します」
老職人は愛想良く、まぁ、頑張りな、と、手を振った。
シャアリィとアイシャは揃ってお辞儀を返し、ヘリントスの工房に向かう。
ドアに備え付けてある呼び出し用のベルを鳴らそうとアイシャがそれを左右に振る。
だが、音が鳴らない。
それも当然、ベルの中には振り子がない。
何のためのハンドベルなのか、壊れたならば、何故、放置しておくのか。
アイシャは、小さなため息を吐く。
「あまり商売気がない方のようだね」
これでは埒が明かないとばかりに、シャアリィが大きな声で呼ぶ。
「お仕事の話があって来ました」
「ヘリントスさんは、いらっしゃいますかー?」
その声に反応して出てきたのは、栗色の髪のモノクルをした若い女性。
「でけえ声だすな」
「私は寝起きなんだよ」
「仕事の話だって?」
「他所へ行け」
「それか、使う奴にこさせろ」
随分な早口に、シャアリィが思わず後退る。
だが、シャアリィも引き下がらない。
勢いよく閉まる扉のドアノブを掴み、
「使う奴は、私です」
と、へらっと笑う。
「よ、そ、へ、い、け!」
と、再び扉を閉めようとするヘリントス。
「でも、ここが一番腕のいい職人だって聞いたから」
食い下がるシャアリィ。
ヘリントスは苛立ち紛れに、吐き捨てる。
「雑魚に売るモノなんてウチにはねえんだよ」
「帰りなお嬢ちゃん」
その言葉がシャアリィの逆鱗に触れた。
「雑魚かどうか、見せてあげますよ」
「三十秒下さい」
怪訝な顔をするヘリントスを前に、シャアリィがワンドを構える。
「チャージ開始、砲撃三十秒前!」
その瞬間、開いた扉に風が吹き込み、砂塵が舞い上がる。
「待て、シャアリィ、何処に撃つ気だ!?」
アイシャの言葉も聞こえないふりで、シャアリィはカウント・ダウンを続ける。
ワンドが示す先にあるのは、ヘリントスの工房の一角。
周囲に荒れ狂う竜巻、呆気に取られていたヘリントスが叫ぶ。
「わかった、撃つな」
「撤回する、きみは雑魚じゃない、話を聞く、だから撃つなぁ!」
その言葉を聞いて、シャアリィはワンドの向きを変えた、が、カウントダウンは止めない。
「三・・・二・・・一・・・砲撃!」
射角四十五度のフルチャージ、ウォーター・キャノンが虚空に向かって放たれる。
「撃ちやがった・・・」
シャアリィの一撃が百メートル以上の放物線を描く。
腰を抜かしたヘリントスの視線の先には虹があった。




