閑話:人形師の行方
結論から言えば、『人形師』という賞金首は、グリーンノウズにはいない。
それどころか最初から、そんな人間は存在しない。
否、『人形師』は存在しないが、衛兵殺しの事件の当事者は存在する。
アルメリオ・ティスコという名の目立たない男だ。
その身元は、勿論、セブール海運商会、クラーケンの用心棒の一人。
彼が好んで使っていた三枚刃の鉤裂きナイフ。
現場に残るその傷跡だけが彼の犯行の証拠品。
犯行は、職務質問の最中。
横柄な衛兵の態度にキレたティスコが、その顔面に一撃。
さらに腹部に数回、凶器を突き立てた。
・・・
雲隠れしたティスコを捕えたのは、セブール商会。
だが、ティスコの死体が出れば、当然、セブール商会が疑われ査察は免れない。
そこで『人形師』という筋書きが考えられた。
その『人形師』の懸賞金を負担するということで、セブール商会は教会査察を免れる。
だが、それだけでは衛兵監督署は納得しない。
そこで実際に、ティスコが逃亡中だと示す為に、お抱えの用心棒に強盗事件を起こさせた。
それに利用されたのがティスコの持っていた鉤裂きナイフだ。
懸賞金の額は吊り上がるが、ティスコ本人が死亡して、既に亡骸は海の藻屑。
どれだけ、懸賞金が上がろうとも、セブール商会に痛みはない。
逃走先が迷宮の中ならば、誰も捜査に入ろうとしない。
そのうち、連続強盗事件が収束すれば、何処かでティスコが死んだのだろうと各方面は納得する。
積もり積もった懸賞金が、金貨三百枚。
あのフランコでさえもが、その所在を掴むことが出来ないのも当然。
最初から『人形師』は、存在していないのだから。
・・・
最初の事件から六年。
未だに『人形師』の手配書は、衛兵監督署の賞金首リストに載っている。
最後の犯行とされる一年前の強盗殺人事件以降、新たな『人形師』の犯行は行われていない。
五十年という年月が過ぎれば、『人形師』の犯罪も、時効。
人の命が安い街で起きた騒動の顛末は、誰も知らない。
関係者の中で唯一生きているのは、全てを企んだ主力船団支配人。
ビル・ジョビンスだけ。




