諸島群
太古の昔、エンダーベルトは大陸の一部だった、と、いう。
旧人類が残した文献によれば、この周辺は複雑な地盤が互いに干渉しあう場所らしい。
隆起、陥没を繰り返し、現在の諸島群が形成されたが、今尚、深海では海底火山がマグマを吹き出しているという。
本来であれば、水の属性に大きく傾きそうな地理であるものの、その成り立ちには、火も土も風もが密接に関わっている。
今でこそ入植者に溢れ、高級リゾート地として栄えているエンダーベルトだが、この繁栄に至るまでは多くの困難があった。
解決するには、魔道の力が必要不可欠であり、それ故の魔道都市。
優れた魔具がエンダーベルトには溢れている。
武具から日常生活用品に至るまで、魔石を利用した便利な道具。
それらは高値で取引され、現在のエンダーベルトの繁栄を支えている。
・・・
冬の訪れを感じていたグリーンノウズの港を離れて二週間。
快適な大型帆船の旅は、エンダーベルト本島の港で終わった。
「大陸を遠く離れた島に、こんなに人がいるなんて驚きだね?」
あれから数日の間、ずっとしょげていたシャアリィだったが、快適な海の旅にすっかり上機嫌。
急ぐと危ないというアイシャの言葉も聞こえないふりで、桟橋に向かって走りだす。
太陽は真夏のように高いが、気温はそこまであがってはいない。
それでも、春の陽気くらいには温かく、周囲を見渡しても、大陸は見えない。
「まずは、冒険者ギルド、それから宿屋と商業ギルド」
「何時もの定番、お散歩はその後だよ?」
アイシャが、シャアリィを手招きで呼ぶ。
「高級リゾートかぁ・・・ちょっといいホテルとか泊まっちゃう?」
一瞬、誘惑に負けそうになったアイシャだが、
「それはダメ」
「シャアリィの新しい装備に幾ら掛かるか分からないし、高いホテルに泊まったって、ベッドがふかふかで、景色がいいくらい」
「そこで贅沢するなら、食事や観光にお金使うほうがいいでしょ?」
「それに滞在期間だって分からないし、ここには知り合いもいないんだよ?」
シャアリィはアイシャの意見に同意して、
「確かにそうだね」
「ここの事が良く分かるまでは我慢だ」
と、笑顔で答えた。
桟橋を渡り終えると、そこには観光案内地図があった。
『ようこそ、魔法の聖地エンダーベルトへ』
冒険者ギルドは、アイスクリーム屋よりも小さな文字で書かれていた。
「どっちが需要があるかと言えば、そりゃあアイスクリームなんだろうけど」
アイシャは複雑な気持ちになりながらも道順を覚え、シャアリィの手を引いて、冒険者ギルドに向かう。
扉を開けて中に入れば、その賑やかさに驚く。
それと同時、ここにいる殆どの者が、術式使いらしいということに、さらに驚く。
「地域冒険者章をお願いします」
何時ものやりとりをカウンターの受付嬢と交わし、何時ものようにカウンターの受付嬢が悲鳴を上げる。
「お、応接室にお通ししますので、少々、お待ち下さい」
それを見ていたまだ幼さの残る冒険者の少年が、
「お姉さんたち、有名なひと?」
と、二人に尋ねた。
シャアリィとアイシャは顔を見合わせて、笑顔で答える。
「全然」
「私達、ある有名な冒険者とよく間違われるんですよ」
そう返すと、
「そっか、もし、パーティのアテがないなら、俺たちのパーティに来てもいいぜ」
「ここじゃ、大体、釣り役二、三人、術式使い二十人くらいのパーティで狩ってる」
「術式使いと斥候なら大歓迎さ」
イメージしていた通りの狩りにシャアリィが興味を示す。
「みんなレベルはどれくらいなの?」
そう問われた少年が、
「ピンキリだよ、下は五十くらいから上は百二十くらいまで」
「結構、皆、仲良くしてるよ」
「俺はここによく顔を出すから、良かったら声掛けてくれよな」
「じゃあ、俺は買い出し頼まれてるから・・・またな」
駆け出す少年の後ろ姿に、二人は笑顔になる。
「冒険者ギルドって、やっぱり、こうじゃなきゃね」
と、シャアリィが言うと、アイシャも頷きながら、
「ああ、あのクソッタレな街のことは、もう忘れよう」
「せっかくのリゾート地だ、楽しく過ごそう」
お茶の準備が出来たらしく、受付嬢が二人を呼ぶ。
「どうぞ、白銀のアイシャ様、琥珀のシャアリィ様」
どよめきに包まれるホールを後に、応接室の扉を開けた二人。
楽しくなりそうだ、と、シャアリィはにやりと笑った。




