癒えない傷の対価
真夜中になって、シャアリィは目を覚ます。
背中をベッドに預けたまま、まだ痛みの残る自分の左腕を見て溜息を吐く。
隣で眠っていたアイシャがシャアリィの目覚めに気付き、身体を起こしてシャアリィの髪をただ、無言で撫でる。
シャアリィは、アイシャの身体にしがみつき、涙を零す。
小さな嗚咽にアイシャもまた、同じように涙を零す。
「私・・・気持ち悪いよね」
「この腕、腐った肉で出来てるんだよ・・・」
「気持ち悪かったら、触るなって言ってよ」
「片腕になったほうが・・・良かった・・・」
シャアリィはリバース・ボディを使ったことを後悔した。
が、アイシャは違う。
シャアリィの左の腕を優しく撫でて、言う。
「その腕が気持ち悪いなら、私の腕をあげる」
「でも、私はシャアリィが片腕にならなくて良かったって」
「こうして、私のこと抱き締めてくれる腕があって良かったって」
「その腕で、これからも私を抱き締めてくれるんでしょう?」
「私達がもっと強ければ、あなただけに苦しみや痛みを背負わせることにはならなかったんだ・・・その腕が気持ち悪いなら、私も、フランコも、もっと気持ち悪い人間だ」
「だから、もう、片腕になったほうが良かったなんて、言わないでね」
シャアリィは、頷きながら大声で泣いた。
二つ離れた部屋で、シャアリィの泣声を聞いていたフランコの目にも涙が流れた。
・・・
西方大教会、枢機卿職務室。
書物棚の横にある安楽椅子に座るアレクサンドルは上機嫌だ。
応接テーブルの上に置かれているのは、
『討伐証明書』
『商業ギルド口座入金証明書』
『感謝状』
『枢機卿勲章』
それを前に、シャアリィ、アイシャ、フランコの三名がソファに浅く腰掛けている。
「私の目に狂いはなかったな」
「フランシスコも、よく、死地へと踏み込み、勇者を守ってくれた」
「私はとても満足しているよ」
「これからは、あの施設に掛かっていた金で多くの民に施しができよう」
「約束の品々を用意しておいた」
「討伐遂行、実に見事」
三人はただ、シャアリィが命懸けで得たものを睨むように見据える。
「どうした?」
「よければ、街一のレストランで一席設けるかね?」
怒りを握りつぶして、アイシャが口を開く。
「いえ、それには至りません」
「私達は、エンダーベルトに向かうことになりますが、構いませんか?」
アレクサンドルは、思案するように窓の外を眺め、そこには海が見えた。
「アイシャ、と、シャアリィ、か」
「二人ならば冒険者稼業などせずとも、私直下の近衛騎士、それも士官として迎えても良いのだが・・・この街に残るつもりはないのか?」
「二年もすれば邸宅も持てるし、この泰平の世であれば大した仕事もしなくていい」
「どうだ?」
シャアリィは喉まで出掛かった言葉を飲み込んで、違う言葉に置き換えた。
「私共は怠け者でございますから、枢機卿様に報いることは出来ません」
「冒険者らしく、野垂れ死にするまで、好きに生きたい」
「あと腐れなく、この街から出ることにします」
シャアリィの言葉にアレクサンドルは嗤う。
「そうだったな、あと腐れなどありはしない」
「約束は守るとも」
「フランシスコ、お前は今日から大司教だ」
「アイシャ、シャアリィ、達者でな」
「万一、死罪に値する罪を犯そうとも、この勲章があれば、不問に出来よう」
「では、神のお導き、巡りあわせに感謝を」
面会の終了を告げたアレクサンドルを残し、三人は帰路に着く。
外は冬の風。
今度こそ、エンダーベルトに向けて、二人は旅立つ。
・・・
その街は聖職者の巡礼地。
その迷宮はアンデッドの巣窟。
そこにある教会は、アーシアン連合国西地区の最高権威教会。
白い壁と青い海、緑風と熱砂、生者と死者。
伝説の魔人マーヴェリック・エルゴ・ダインの故郷。
グリーンノウズを離れ、アーシアン連合、最南端の島へ。
癒えない傷を抱えたままで。




