贅沢
向かう先は商業ギルド。
金貨二百十枚はずっしりと重く、持ち運ぶには不自由この上ない。
まずは口座に入金した上で、少し豪勢な買い物をすることにした。
旅を続ける身の上では、豪勢な買い物と言っても所詮は値の張る食材程度。
シャアリィが真っ先に候補に挙げたのは、マグロのトロ。
それならばとアイシャは海鮮に合うライス・ワイン。
山葵や塩気の効いた大豆ソース、口直しにはミルフィーユ。
上等な桃とオレンジ、フランコの土産にはテキーラ。
店先に並ぶ冬物のコートも欲しかったが、次の街は常夏の島。
まだまだ震える程の寒さでもなく、衝動買いは先送りにされた。
買い物を終えて、フランコ邸に戻ると家の主はソファに寝そべり、融合個体の魔石を眺めていた。
「やぁ、随分と買い込んできたね」
と、身体を起こして、無造作に魔石をソファに放る。
シャアリィは両手の空いたフランコに、テキーラの瓶を差し出して、
「お口汚しの安酒ではありますが、召し上がって頂ければ恐悦にございます」
と、歌劇の悪徳商人のようににやりと笑う。
フランコも、それに乗っかり、
「ほほう、良き心掛け、其方の思う所、申してみよ」
と、同調すれば、アイシャは手を叩いて笑う。
シャアリィは、油紙に包んだ大振りなトロの切り身をフランコに見せ、
「上手に切れるか心配だから、フランコに頼もうと思って」
と、差し出すものの、フランコが首を横に振る。
「私は聖職者だからね」
「必要最低限しか刃物に触れてはいけないんだ」
それが嘘か本当か・・・アイシャは嘘の気配を読もうとするが、
「どうやら本当みたい?」
との結論に、「じゃあ、私が切るけど文句はナシで」、シャアリィに包丁が渡った。
アイシャは生菓子と果物を魔石冷蔵庫に仕舞い、ライス・ワインの栓を開ける。
「珍しいモノを買ってきたね」
と、フランコが小さなグラスを差し出し、ここに注げと催促した。
注がれたソレを一息に飲み干し、満足気に長い息を吐く。
「さぁ、シャアリィ、トロを切るんだ」
「コレは魚料理との相性が抜群の酒だ」
割烹での切り身を思い出しながら、シャアリィが程好い厚さの刺身を盛る。
テーブルに置くと同時、フランコのフォークがそれに刺さる。
「おい、神父、食前のお祈りはなくていいのか!」
アイシャの抗議も痛痒とせず、薬味をナイフで塗りつけて、大豆ソースを少し垂らす。
そして、おもむろに口に運び、フランコはその食感を存分に堪能する。
嚥下した後に心を込めて、
「神の慈しみに感謝します」
などと言うのだから、シャアリィもアイシャも呆れてしまう。
何処までも自由で、のらりくらりと自在に世間を渡り歩く。
それでいて筋を通すべきを通す、そういうフランコの生き方は、シャアリィやアイシャには真似が出来ない。
「もう、一人だけつまみ食いして、ずるい」
三人分の刺身を切り終えたシャアリィが、アイシャの手からグラスを受け取って、和やかな宴が本格的に始まった。
「あとは、シャアリィの二回目の術式取得だね」
「壱千六百少々残ってるから、あと二日潜ろうか」
「そうすれば多分、余裕を持ってやれると思う」
アイシャの言葉に頷きながら、シャアリィは考えていた。
二人を納得させるだけの術式を手にすることが出来たなら、『廃棄の王』に挑む、と。
ただ、この和やかな宴に水を差すのは気が引ける。
今はただ、自分だけの心の中。




