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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
299/396

ゲーム・オーバー

澄み渡る秋の空には雲一つない。

滞在している十六番教会の広い中庭、珍しくフランコが鍛錬に励んでいる。


「アイシャ、組手の相手をお願いしてもいいかい?」


指名されたアイシャは貫禄の笑みを浮かべて、


「お互い怪我をしない程度に・・・」

「否、ここには優秀な治癒師がいるんだっけね」

「じゃあ、少々、本気でも構わないね」


等と物騒なことを言う。

フランコはにやりと笑いながら、掛かって来いと手招きをした。

アイシャは容赦しないとばかりに、鋭い踏み込みから先制の足払いを放つ。

普通ならば飛んで避ける低い攻撃をフランコはカウンターで同様の足払い。

膂力に勝るフランコの足払いがアイシャの蹴り足を弾き飛ばす。

そして、余裕のままに、軽くステップジャンプを踏む。


アイシャは、「やるな」と、その鋭さに敬意を示す。

フランコの脚が地から離れた瞬間を見極め、自身の掌底の間合いまで、滑るように跳躍し、無精髭の顎目掛けて左掌底。

フランコを身を反らして掌底を躱し、そのままアイシャの左腕を抱えるように持って、倒れ込む。

このまま倒されれば腕を折られると判断したアイシャが、倒れ込むフランコの鳩尾に膝を乗せる。


この姿勢なら、フランコの鳩尾にアイシャの膝が先にめり込む。

フランコは両膝を畳み、その強靭な腹筋で、アイシャの膝を跳ね上げる。

片腕を取られ、体重を乗せた膝を弾かれても、このままフランコの背中が地に着けば、アイシャは馬乗りの状態から攻撃が出来る。


しかし、そうはならなかった。

フランコの背中が地に着くと同時、密着状態のアイシャの顔面にフランコの頭突きが炸裂。

鼻を折られては、さすがのアイシャも観念し、降参を宣言するしかない。


もし、この場にシャアリィが居たならば、術式攻撃を喰らいかねないような一撃。

少々、大人げなかったとフランコはアイシャに謝罪し、上級治癒を詠唱する。

鼻の骨折というのは痛みは勿論、生体反射で涙も出る、さらに血が気管に入れば呼吸不良。

致命傷に至らずとも、大きく戦力を低下させる人体の急所だ。

厄介なことに鼻骨を鍛える鍛錬方法は皆無であり、武道家ならば皆、一度はその恐ろしさを経験する。


アイシャは喉に絡む血を吐き捨てて、気丈に笑っているが、その耳は烏賊耳、しっぽは不規則に波打つ。

受けた痛みもさることながら、組手で負かされるのはアイシャにとって屈辱。

自身の攻撃はひとつも入っていないのだから忸怩たる思い。


「ちょっと自信なくしたかも」


フランコは邸宅の冷蔵庫から冷えたソーダを小走りで持ってきて、一つをアイシャに投げ渡す。


「筋肉量も、体格も、私のほうが有利なんだ」

「気に病むことではないさ」

「もし、私が負けたなら、そっちのほうが問題だ」


理屈の上ではわかっているが、それでアイシャの機嫌が直るわけがない。


・・・


昼近くになってシャアリィが目を覚ましたので、二人は冒険者ギルドに足を運ぶ。

閑散としたギルドには、何時ものようにアイリーンだけが座っている。

声を掛けるまでもなく、アイリーンがジョンソンを呼んだ。

寝不足なのか、足元の覚束ないジョンソンが何時もの扉から姿を現す。

表情を隠すサングラスさえも外したまま。

まるで謝罪するかのように俯いて言葉を絞り出す。


「・・・俺の手元には、お前らが望むカードは、もうない」


数秒の沈黙の後、思いついたように顔を上げ、卑屈な笑みを張り付けた日焼け顔が喚くように言葉を並べる。


「ここは相談なんだが、俺が賞金首の報酬を上乗せする」

「面倒にならない奴の報酬を倍付けにしよう」

「それも、俺が居所を掴んで、お前達に知らせる」

「お前達は踏み込んで、相手を無力化するだけでいい」

「簡単な仕事で手軽に金貨を摘まめる」

「これでどうだ!濡れ手に粟じゃねえか!」


ジョンソンの言葉が途切れるまで、アイシャは目を閉じて待った。

そして、ゆっくりと頭を横に振る。


「ギルマス、あんたはやり方を間違えたんだ」

「大物を紹介する代わりに先に賞金首をふたつ、みっつ片付けてくれと言われていたなら、多分、私達は応じていただろう」

「駆け引きだけが賢いやり方じゃない」

「信頼関係というやつがあれば、違った結末になってたはずだよ」

「他人を信じれば馬鹿を見る」

「グリーンノウズでは常識かも知れないが、私達は違う」

「今、私達に提案した条件を出せば、ひとりくらい腕利きの冒険者だって雇えるさ」


「私達の仕事は終わった」


ジョンソンは項垂れ、アイリーンは宙に向かって紫煙を吐いた。



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