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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
298/395

馬鹿げた選択

ジョンソンから譲歩を引き出す為に、『廃棄の王』の放置をチラつかせたアイシャだが、シャアリィは結構なやる気を見せている。

だが、想定される危険度を考えれば、やはりアイシャは二の足を踏む。


「フランコ、『廃棄の王』って知ってる?」

「所在からして、アレ、教会絡みの魔物でしょう?」


ソファで(くつろ)ぐフランコが、やれやれとばかりに読んでいた本を脇に置く。


「アレは、本当の意味でのネームドだよ」

「彼の名前は、ジョセフ・ベルトーネ・・・元、教会騎士団の術式使い」

「『精霊使いジョセフ』という二つ名が示す通り、類稀な四属性使い」

「例の『不老不死者計画』の犠牲者の一人」


「異端者狩りの道中、偶発的な暴動で命を落とした彼は、実験体として使われた」

「首尾よく魔石蘇生に成功すれば、極上の兵士となるからね」

「神のきまぐれ・・・魔石蘇生は成功」

「彼が不運だったのは、その完成度が高過ぎたことだ」

「マーヴェリック程の瞬間再生能力はないが、極めて強い復元能力を持っている」

「・・・問題は、その復元能力さ」

「それは復元というよりも、増殖能力・・・つまり、自分で自分の身体を切除しないと、ヒトの形を保てない」

「『不死側』に寄せ過ぎてしまったんだよ」

「だから、自らの身体を切り刻み、自死を繰り返す以外に選択肢がなかった・・・」

「生きるために死ぬ、死ぬから生き返るという痛みの螺旋」

「そんなことをしていたら当然、理性なんて保てない」

「目につく人間を殺しまくり、討伐に行かせた敏腕の騎士団も壊滅」

「だが、成功例の一つとして、教皇は彼の存命を望んだ」

「西方大教会としては、教皇の意向とリスクの管理を両立しなきゃならなくなった」

「本物の魔人災害が起きないように最下層の幽閉区画に隔離」

「その上で、冒険者に倒されるならば、所詮は不出来な失敗作、と、教皇に捻じ込むことは叶い」

「ネームドとして登録されるに至った」

「教会が捕えた恐るべき魔物、そういう触れ込みならば教会の権威の宣伝にもなる、と、ね」


アイシャは、手を出すべき相手ではないと、理解した。

シャアリィは、自身の術式で対抗出来るかを考え、


「コラプションの破壊とベルトーネの増殖、どちらの速度が勝つと思う?」


と、フランコに尋ねる。


「断言は出来ないが、シャアリィの術式ならば勝算はあるよ」

「だが、どうやって接近する?」

「理性がないというだけで、まるっきり狂ってるわけじゃあないんだ」

「四属性上級術式全てを封殺し、手が届く距離まで近寄れるなら、シャアリィの勝ち」

「被弾ひとつで負け」

「どう考えても分のいい勝負じゃないよ」

「それに無理をしてまで戦う理由がないだろう?」

「教会だって、いざとなれば人差し指の迷宮を完全崩落させる」


アイシャが、シャアリィの頭を撫でながら、回避の選択を促す。


「シャアリィ、ここで博打を打つ意味はないよ」

「あなたはジョンソンへの置き土産にしたかったんでしょうけれど」

「私達にはやるべきことが残っている」


シャアリィは思う。

まともな思考があるならば、フランコやアイシャが絶対的に正しい、と。

それでも尚、『廃棄の王』討伐に自分の心が傾くのは、単なる自尊心(プライド)の問題だ。

『彫像』の時には逃げた。

そして、また、逃げるのか、と。

それが嫌でたまらなかった。

テーブルに出された食事を無碍(むげ)にするような居心地の悪さに慣れてしまったなら、様々なことに鈍感になってしまうのでは、そんな漠然とした嫌悪。


「アイシャ・・・ジョンソンのカードを見て、そして、もう一度、私の術式獲得を経て、それから決めてもいい?」

「二人が回避を選択するのは、正しい」

「私にだって理解できないわけじゃないよ?」

「でも、理解出来ても、再び、心の負債を抱える」

「私の我儘を少しだけ聞いてもらいたいんだ」


実際に現場で命掛けの勝負をするのは、シャアリィだ。

そのシャアリィから出た言葉ならば、認めないわけにもいかない。

だからこそアイシャは嘆願する。


「シャアリィの言うことだってわかる」

「尊重したい」

「でも、私はシャアリィを失いたくない」

「お願い・・・」


平行線上にある選択肢。

その天秤を傾けるに値するカードと術式は手に入るのだろうか。

運命はまだ揺らいでいる。


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