馬鹿げた選択
ジョンソンから譲歩を引き出す為に、『廃棄の王』の放置をチラつかせたアイシャだが、シャアリィは結構なやる気を見せている。
だが、想定される危険度を考えれば、やはりアイシャは二の足を踏む。
「フランコ、『廃棄の王』って知ってる?」
「所在からして、アレ、教会絡みの魔物でしょう?」
ソファで寛ぐフランコが、やれやれとばかりに読んでいた本を脇に置く。
「アレは、本当の意味でのネームドだよ」
「彼の名前は、ジョセフ・ベルトーネ・・・元、教会騎士団の術式使い」
「『精霊使いジョセフ』という二つ名が示す通り、類稀な四属性使い」
「例の『不老不死者計画』の犠牲者の一人」
「異端者狩りの道中、偶発的な暴動で命を落とした彼は、実験体として使われた」
「首尾よく魔石蘇生に成功すれば、極上の兵士となるからね」
「神のきまぐれ・・・魔石蘇生は成功」
「彼が不運だったのは、その完成度が高過ぎたことだ」
「マーヴェリック程の瞬間再生能力はないが、極めて強い復元能力を持っている」
「・・・問題は、その復元能力さ」
「それは復元というよりも、増殖能力・・・つまり、自分で自分の身体を切除しないと、ヒトの形を保てない」
「『不死側』に寄せ過ぎてしまったんだよ」
「だから、自らの身体を切り刻み、自死を繰り返す以外に選択肢がなかった・・・」
「生きるために死ぬ、死ぬから生き返るという痛みの螺旋」
「そんなことをしていたら当然、理性なんて保てない」
「目につく人間を殺しまくり、討伐に行かせた敏腕の騎士団も壊滅」
「だが、成功例の一つとして、教皇は彼の存命を望んだ」
「西方大教会としては、教皇の意向とリスクの管理を両立しなきゃならなくなった」
「本物の魔人災害が起きないように最下層の幽閉区画に隔離」
「その上で、冒険者に倒されるならば、所詮は不出来な失敗作、と、教皇に捻じ込むことは叶い」
「ネームドとして登録されるに至った」
「教会が捕えた恐るべき魔物、そういう触れ込みならば教会の権威の宣伝にもなる、と、ね」
アイシャは、手を出すべき相手ではないと、理解した。
シャアリィは、自身の術式で対抗出来るかを考え、
「コラプションの破壊とベルトーネの増殖、どちらの速度が勝つと思う?」
と、フランコに尋ねる。
「断言は出来ないが、シャアリィの術式ならば勝算はあるよ」
「だが、どうやって接近する?」
「理性がないというだけで、まるっきり狂ってるわけじゃあないんだ」
「四属性上級術式全てを封殺し、手が届く距離まで近寄れるなら、シャアリィの勝ち」
「被弾ひとつで負け」
「どう考えても分のいい勝負じゃないよ」
「それに無理をしてまで戦う理由がないだろう?」
「教会だって、いざとなれば人差し指の迷宮を完全崩落させる」
アイシャが、シャアリィの頭を撫でながら、回避の選択を促す。
「シャアリィ、ここで博打を打つ意味はないよ」
「あなたはジョンソンへの置き土産にしたかったんでしょうけれど」
「私達にはやるべきことが残っている」
シャアリィは思う。
まともな思考があるならば、フランコやアイシャが絶対的に正しい、と。
それでも尚、『廃棄の王』討伐に自分の心が傾くのは、単なる自尊心の問題だ。
『彫像』の時には逃げた。
そして、また、逃げるのか、と。
それが嫌でたまらなかった。
テーブルに出された食事を無碍にするような居心地の悪さに慣れてしまったなら、様々なことに鈍感になってしまうのでは、そんな漠然とした嫌悪。
「アイシャ・・・ジョンソンのカードを見て、そして、もう一度、私の術式獲得を経て、それから決めてもいい?」
「二人が回避を選択するのは、正しい」
「私にだって理解できないわけじゃないよ?」
「でも、理解出来ても、再び、心の負債を抱える」
「私の我儘を少しだけ聞いてもらいたいんだ」
実際に現場で命掛けの勝負をするのは、シャアリィだ。
そのシャアリィから出た言葉ならば、認めないわけにもいかない。
だからこそアイシャは嘆願する。
「シャアリィの言うことだってわかる」
「尊重したい」
「でも、私はシャアリィを失いたくない」
「お願い・・・」
平行線上にある選択肢。
その天秤を傾けるに値するカードと術式は手に入るのだろうか。
運命はまだ揺らいでいる。




