快晴の追跡
防水布だけで温まるには流石に限度がある。
持ち物を並べて見れば、焚火を起こすことが可能だとわかった。
着火用金属棒と度数七十パーセントのジン。
勿体ないが着替えの下着をジンに浸して焚きつけに使う。
そうすれば、生木でもない限りは火を起こせるし、一度火力を上げれば、維持は難しくない。
アイシャは意を決して、雨を絞っただけの濡れた服を纏い、焚火に使えそうな枝を集めることにした。
この風雨の中で、湿った生木と枯れ木の判別はシャアリィには難しい。
アイシャならば、セロニアス仕込みのサバイバル技術がある。
灯りは不燃カンテラがある。
火の魔石を燃料とするため、濡れていようと問題はない。
アイシャが枯れ木を集めている間、シャアリィは遮光壁を岩石片で組み上げる。
洞窟の外に光がなるべく出ないようにするためだ。
アイシャが戻ってきて、濡れた服を脱ぎ、ついでに拾ってきた長い枝にそれを通す。
枯れ枝を組み上げ、その上にジンを浸した布を置き、着火。
一瞬で火は着いたものの、布が燃える速度が思った以上に早い。
アイシャは濡れた枯れ木の水気を半渇きの布で拭き、そこにジンを垂らす。
焚きつけに使った布が燃え尽きる前に、ジンを含んだ枯れ木に火が移り、それを起点になんとか焚火を得ることが出来た。
シャアリィは、それを見届けて不燃カンテラの灯りを消す。
「やった、あったかーい」
シャアリィが喜声を上げ、アイシャはそれを見て顔が綻ぶ。
雨の中を駆け回った甲斐があった。
こうなれば、少々太い枝であろうと、問題はない。
濡れた服を絞って、火に掲げれば思ったよりも早く乾いた。
ただ炙っただけのチーズや干し肉が香ばしくて美味しい。
暗闇だった洞窟が炎で照らされ、粗末な食事で腹を満たせば、今度はアイシャが眠る番。
焚火の前に寝袋を広げて、やっと身体を休めることが出来た。
・・・
夜明けと共に嵐は去り、ほぼ無風の高空が広がる。
周囲のあちらこちらで木々が風になぎ倒され、地面の凹凸には小さな泥濘が沢山出来た。
この季節は、一雨毎に気温が下がる。
少し肌寒い風。
耳を澄ませば、遥か遠くから木を薙ぎ倒す音が聞こえてくる。
シャアリィとアイシャは顔を見合わせて、ほくそ笑む。
「間違いない・・・やつだ」
音が聞こえてくる先は西側の原生林エリア。
シャアリィとアイシャは戦闘に必要なものだけを持ち、駆け出してゆく。
今の二人は獲物を追跡する二匹の狼。
「シャアリィ、慌ててもいいことはない」
「泥濘で滑って膝をすりむいても、ジンをぶっかけるくらいしか出来ないよ」
「すっごく傷に沁みるんだからね」
アイシャが速度を落とし、シャアリィの手を取る。
シャアリィはにやりと笑って、
「あの時のスノウ・ウルフたちもこうやって合図しあったのかな」
「でも、私達には狼以上の知恵がある」
「お互いを確かめ合う言葉がある」
アイシャが言う。
「敵が止まり、こちらに進行方向を向けたら、それがやつの索敵範囲だ」
「打ち漏らした時に備えて記憶しよう」
「ボアや、バイコーンを発見しても、攻撃の意志がない限り無視」
「やつを見つけて原生林から東側に誘導しよう」
やがて、足音も聞こえ始め、その距離が近いことを感じる。
アイシャはポケットからコンパスを取り出し、方位を把握。
「そろそろ、こちらに向かってくる頃だが」
「所詮、やつの歩行速度では、私達には追い付けないから、近くまで接近したって構わない」
その時、こちらに向かって突っ込んでくるジャイアント・ボアが一頭。
だが、進行方向は、シャアリィ、アイシャの直線上にはない。
「やつの接近に気付いて、他の魔物が逃げているね」
ボアの逃走を見届けながら、さらに歩を進める。
その時、大きな衝撃音と木々が激しくぶつかる余韻が耳に入る。
その方向に目をやれば、まさに巨人というに相応しい体躯の魔物がいた。
一方的な視認。
他のゾンビィに比べて、『巨人の骸』は、随分と感覚が鈍いようだ。
まだ、シャアリィとアイシャに気付く様子がない。
シャアリィは思わず声を出して笑う。
「おじいちゃんかよ」
「耳遠すぎじゃん」
アイシャも全くだと同調して笑った。




