嵐
初日は落日まで時間の猶予がなく、開けた平地の探索と枯れ枝の回収で時間切れ。
二人が同時に眠ることはない為、寝袋はひとつだけ。
初日だけは贅沢をしようと、やわらかいパンを持ってきたのはシャアリィの提案だ。
ロースト・ビーフの塊と瓶詰のピクルス、一本きりのソーダを分け合う。
明日からは、干し肉と乾パン、そしてチーズ。
アーシアンからレリットランスに移住したての頃を思い出す。
「あの頃は、本当に二人とも頑張ったよね」
「時々、こういう訓練合宿みたいなの、やるのもアリかも」
アイシャが焚火の炎に目を細め、そんなことを話せば、
「いやぁ、さすがにこういうのを好んでやるのは、どうかと思う」
と、シャアリィは異論を唱えた。
風に吹かれる焚火の炎の揺らめきが少しばかり大きく、肌に当たる風も昼間よりも強く感じる。
オルソンの言っていた『嵐』の到来が現実味を帯びる。
「シャアリィ、先に寝ておいて?」
「雨が降り始めたら睡眠どころじゃなくなるから」
「私も代謝を抑制して、半休息状態にするから、気にせずにね」
今、二人が野営をしている場所は、雑木林の中の少し開けた場所。
まだ島の地理を把握していない以上、岩場の周辺は落石が危うく、低地では高波の危険がある。
消去法でボートを置いた付近が、最も野営に向いていると判断したのだ。
数時間が経過し、シャアリィとアイシャが交代する。
月明りが照らす雲の動きが、やはり早い。
せめてアイシャが眠っている間だけでも、雨が降らなければいい。
シャアリィの思いが通じたのか、雨が降り始めたのは夜明け前のことだった。
夜が明け、空に広がっているのは灰色の分厚い雨雲。
昨日の静かな海が嘘のように漁港には高波が押し寄せ、引き波で周囲の砂浜が時々姿を見せる程の荒れ具合。
焚火の火は消え、シャアリィとアイシャもずぶ濡れになる。
さすがにこのままではまずいと判断したアイシャが、
「雨を凌げる場所を探そう、危険は承知だが岩場に行くよ」
シャアリィが頷き、二人で走り出す。
小高い山肌に着いたものの、二人が身体を隠せる程の大きな凹みは見当たらない。
面倒だとばかりに、シャアリィがチャージを開始する。
「こんなに大きな岩盤なら、崩落なんてことにはならないよね」
それは自分自身を信じ込ませるために呟いた言葉。
十五カウントの大出力フローズン・キャノンで、壁面に穴を穿つ。
「あはっ、上手くいった」
砕いた岩石が転がってはいるが、即席の洞窟を掘ることには成功した。
アイシャが手早く、岩石の破片を隅に寄せ、二人が寝転べるくらいのスペースが確保された。
多少、風は吹き込むものの、不快な雨に晒され続けることはなくなった。
この雨風では流石に火を起こすことも出来ない。
二人は、着替えの衣類を用いて髪の水気を取り、服を脱ぎ防水布にくるまって、身を寄せ合って温めあうしかなかった。
雨に濡れて下がった体温も、時間の経過と共に戻り、人心地つく。
消毒用に持ってきた度数の高いジンを一口づつ口に含めば、吹き込む風すらそよ風のように感じる。
アイシャは風雨に鈍る索敵の中、背中に感じる暖かさに恍惚となる。
何度も誓い繰り返した言葉、共に生き、共に死ぬ、それを今、実感している。
楽観的に考えれば、この嵐の中で活動する魔物はいまい。
獲物を見つけるのも容易ではなく、この嵐の中を徘徊する理由がない。
気付けばシャアリィは小さな寝息を立てていた。
アイシャの体温の心地良さと、度数の高いジンに耐えられなかったのだろう。
そう言えば、シャアリィは雨の音が好きだったな、と、思い出す。
背中に感じる温もりはあるけれど、これだけくっついているのに心臓の音は一つ分。
アイシャは身体の向きを入れ替えて、シャアリィの背中を抱き締める。
それは、自分がシャアリィを守るのだという、小さな自己満足。
もう暫く、シャアリィを起こすのは後でいい。




