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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
291/395

ブルックメンソン島

教会に戻ったフランコを出迎え、アイシャが首尾を問う。


「どうだった?」


フランコは何時もの飄々とした笑みで、少しばかり文句を言う。


「片道一時間の船賃が金貨三十枚、帰路に使う手漕ぎボートが金貨十枚」

「土産に持っていったブランデーが金貨二枚」

「巫山戯るなと喉まで出たけど我慢したよ」

「全く、あの禿め」


禿と聞き、アイシャの脳裏に浮かんだのは、やはりビル・ジョビンス。


「そいつ、もしかして・・・」

「俺っちとか言う太った男?」


フランコは、間違いなくそいつだよ、と、アイシャと笑う。

アイシャは商業ギルドの小切手に、掛かった費用と礼金を含めた金額を書き込む。


「さすがに現金の手持ちで金貨四十二枚はないから、これで」

「余分は、フランコへの報酬」


『金貨五十枚』の小切手を受け取ったフランコは、


「こんなに上乗せしてくれなくてもよかったんだがね」

「有難く頂いておくとしよう」


と、微笑んだ。


夕食と軽い酒盛り、他愛のない会話を楽しんだ後。

シャアリィは、数日の滞在を念頭に、水や携帯食、着替えをナップサックに詰め込む。

アイシャも同様に装備を整え、早めの就寝についた。


・・・


午前十一時五十分。

穀物埠頭の一番船、フランコに付き添われ、アイシャとシャアリィが到着した。


「船長のオルソンです」

「短い旅路ですが、無事に荷をお届けしますよ」


と、フランコとオルソンが握手を交わし、アイシャとシャアリィは帆船に乗り込む。

金貨五十枚の出費とはいえ、これだけ大きな帆船であればセイレーンたちも簡単には手が出せまい。

問題は帰路・・・帆船に備えられた三人乗り用の手漕ぎボートは、大波一つで転覆するような代物であり、アイシャがその漕ぎ手になった場合、戦闘を請け負うのはシャアリィ一人。

内陸育ちのシャアリィが海で泳ぐ羽目になれば、その命運はかなり危うい。


そんなアイシャの不安を知ってか知らずか、シャアリィは旅行気分で楽しそうにしている。


「アイシャ、そんなにいろいろ考えなくていいよ」

「水属性相手なら、氷結させずともフローズン・レイジの対象だ」

「私がボートの中心で、カース・サークルを展開すればセイレーンは近寄れない」

「水属性の弱点は、土石属性だけじゃなく、水そのものも含まれる」

「ウォーターアローは、水中では数メートルで減衰消滅するし、ウォールやウェイブも空気中より遥かに弱い」

「海面に浮かんだなら、私のストーン・バレットの餌食だ」

「気楽に行こう!」


シャアリィの言葉で、アイシャの不安が掻き消える。


「成程・・・それなら帰路はそれ程心配せずともいいね」


二人は並んで蒼く澄んだ海を眺める。

無数の銀色の煌めきは、小魚の群れだろうか。

旧人類は、かつてこの大地を飛び出し、空に浮かぶ星まで辿り着いたという。

その旧人類を持ってしても、海という陸の倍程もある世界は隅々まで知ることがなかった、と。


息さえ出来ず、深い場所には光も届かない。

今、自分たちの足元にある水の世界は、まったく手付かずの未知の領域。

この大きな帆船でさえ、嵐の前では揺れる木の葉に過ぎない。


益体もないことを考えている間に、目的地が見えてきた。

それは西半分を原生林が覆う放棄された漁村の島、ブルックメンソン。


帆船は島の南側を横切り、東部にある漁港跡へと向かう。

長い年月潮風と波に晒されながらも、過去の住人が作った石積みの防波堤は健在。

そこから陸を見渡せば、朽ちた家屋の土台の跡だけが、ここに人が住んでいたことを物語る。


快晴の潮風は(ぬる)く、まとわりつく塩気が少々不快だが、大したことではない。

それよりも、船長が気になることを二人に告げた。


「この辺は潮の満ち引きの幅が大きい」

「ボートは、必ず、やりすぎなくらいに内陸まで押し上げておくんだ」

「あんたたちにはわからんだろうが、風が早い」

「これは嵐の到来を意味するものだ」

「帰りの脚を失いたくないならば、私の言う通りにするんだ」

「嵐になればボートを風で失う危険もあるだろう」

「このロープを餞別にやるから、ちゃんとしっかり太い木に結んでおけよ!」


無事に漁港跡に降り立ち、ボートが帆船から降ろされる。

シャアリィとアイシャは、帆船の乗員に大きく手を振って別れを告げた。


「さて、船長のアドバイス通りにしましょうか」


シャアリィとアイシャは、ボートを裏返すと頭に被るようにそれを持ち上げ、石造りの階段の丘を登る。

雑木林の中に窪地を見つけ、そこに船を下ろして、舳先と目についた太い幹をロープで結ぶ。


「こんなに晴れているのに、嵐が来るのか・・・」


半信半疑でありながらも、備えというのが大事なことは身に染みて知っている。


「少し休憩したら、島の探索をしよう」

「野営に必要な枯れ枝も集めなければならないし」


漁港跡を見下ろしながら、チョコレートを口にいれる。

こうして、『巨人の骸』討伐が始まった。


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