商談成立
正午の教会の鐘が鳴り、アイシャの依頼を引き受けたフランコは、セブール商会へと足を運んだ。
コンテナを積み下ろしする埠頭には、五隻もの貨物帆船が停泊している。
収穫期を終え、小麦輸送のピークを越えた貨物帆船の積み荷は少ない。
セブール商会との交渉をするには都合の良い時期だろう。
「支配人はいるかね?」
と、フランコが銀枠純金十字を見せれば、例えフランコの顔を知らずとも、重要な客人であることは下っ端の船員にもわかる。
立派な三階建ての社屋、その玄関の影には武装した用心棒が数名。
八つの港を拠点とする大海運企業セブール商会。
受付嬢にとってはフランコは見慣れた客人であり、わざわざ用件を聞くまでもなく応接室に通される。
「おや、アレクサンドル閣下の子分が、こんな時期に何用かな?」
「教会のお咎めになるようなこたぁ、何もした覚えがないんだが」
出迎えたのは、あのビル・ジョビンスだ。
「やぁ、どうもジョビンス支配人」
「間に合わせの手土産で申し訳ないが、まずはこれを」
高級なブランデーのボトルをフランコがテーブルの上に置く。
「ふぅん、こんな上等なものを貰う覚えもないなぁ」
「と、なりゃあ、商談か、頼み事か」
「俺っちは、これでも忙しいんだ、早速、用件を聞こうか?」
フランコは小さな拍手をしてから、話を切り出す。
「さすがは支配人、話が早くて助かるよ」
「私の知り合いをちょっと面倒な所まで運んで欲しいんだ」
「手漕ぎボートを一艘つけてね」
「やってくれるか、どうか、やってくれるなら幾らでやってくれるか」
「手短に教えて貰いたい」
ジョビンスは顎に手を当て一考し、フランコの依頼を言い当てる。
「ボートを一艘つけろって、そんな変な要求は、あの島だろ」
「あそこにゃバケモンしかいねぇ、観光地でも、漁場でもない」
「どんなモノ好きなんだよ、そいつは」
フランコは何時もの飄々とした笑顔で答える。
「全くもって同意するね」
「そいつらは『象』と賭けをしていてね、あそこにいる魔物を狩るらしい」
「協力してくれるアテが、支配人くらいしか思いつかなくてね」
「『商談』に来たのさ」
ジョビンスが葉巻を取り出して、吸い口を切り落とし、火を着ける。
火が回るまで何度も葉巻を小刻みに吸い込んだ後、一際大きく吸い込んで煙を吐く。
「そいつは腕の立つ冒険者なのか?」
「あの島に降りても平気なくらいに」
「このブランデーを手土産にするくらいの価値はあるのか?」
話の行方が妖しくなり、フランコは内心舌打ちをする。
「ちょっとばかり頭の螺子が緩いやつらですよ」
「どうしてもと聞かなくてね」
「そのブランデーは、実は手土産じゃなくて、そいつらからの貢ぎ物」
「少しばかり金は持ってる」
ジョビンスは口角を吊り上げて、
「荷物の運び賃は、金貨三十枚(三百万円)」
「俺っちんとこの帆船なら余程のヘマをしない限り、セイレーンに乗り込まれる心配もない」
「ボートの代金に金貨十枚」
「帆船を動かすにゃあ人手がいる」
「そいつらの日当も出さなきゃならん」
「俺っちが考えた、良心的な価格ってやつだ」
アイシャやシャアリィが、クラーケンの目に留まるよりはマシだ。
そう判断したフランコは、苦虫を嚙み潰した顔をわざと見せる。
「ちょっと高過ぎないか」
ジョビンスは高笑いしながら、
「じゃあ、この話はナシだ」
と、平気な顔をしている。
それはこれ以上、交渉を続ける気がない、と、いう事だ。
「わかった、その額で頼む」
フランコが懐の革袋から、金貨十枚を纏め、四列、テーブルに置く。
ジョビンスは、金貨に手も触れず、商談成立を告げる。
「商談成立」
「明日の正午、穀物埠頭の一番船に連れて来い」
「勿論、時間厳守」
「十分遅れる毎に、金貨一枚を請求する」
フランコは愛想よく席を立ち、ジョビンスに礼を言った。
「感謝します」
「貴方に神の祝福があらんことを」




