安息
シャアリィの戦装束はその殆どがシルクとリネン。
吸湿性が高い分、血の汚れは落ちにくい。
皮の装備も同様に、膝当てからブーツに至るまで、大量の血液に浸されれば全損だ。
もしも、こんな姿で街を歩いたならば、衛兵監督署から武装兵がすっ飛んでくるだろう。
迷宮からの帰り道は、幸いにして旧市街区だから、まだ人目は少ないが、それでも夕刻を待ち、なるべく目立たないように帰宅した。
「明日、買い物に行かなくちゃ・・・ね、フランコ?」
シャアリィは、新しい装備の代金をフランコに支払わせるようだ。
融合個体の魔石を手にしたフランコは上機嫌で、それを了承した。
「いいとも」
「なんなら、生菓子や果物も買うといい」
アイシャは脚を少し引き摺るシャアリィを見て、
「フランコ、痛みを取る術式とかないの?」
と、フランコに尋ねる。
フランコは、顎に手をやり、それに答える。
「あるにはあるがね」
「お勧めはしないよ・・・感覚遮断がどういうものか、きみなら知っているだろうアイシャ」
「慣れていなければ、歩くことは勿論、立っていることさえままならない」
「あの、ふわふわとした違和感は、痛みより余程不快だよ」
「ベッドで横になっているならいざ知らず、この場で使えるもんじゃない」
そう言われれば、諦めるしかない。
・・・
あれだけの血液を垂れ流せば、さすがに貧血が収まらず、シャアリィは頭痛と吐き気に苛まれている。
完全な回復までには、二、三日要するだろう。
アイシャも又、そんなシャアリィを見れば食欲も下がり、ソーダばかりを口にした。
思えば、シャアリィが戦闘でこれ程のダメージを受けたのは、ガーゴイル殲滅戦以来のことだ。
内臓破裂のあの時ですら、今回に比べれば、軽傷。
治癒術師がフランコでなかったなら、シャアリィの片足は多分、無くなっている。
これが以前、イザベラから聞かされた有毒種の猛威・・・アイシャは血液毒の恐ろしさを思い知った。
無理やり口に詰め込んだ食事。
少しばかり血色を取り戻したシャアリィの眠りは深い。
最上級ヒールを受けてさえ、その身体は完全な治癒から程遠い。
これが、戦闘で負傷するという現実。
無双の攻撃術式があった所で、その身体は少女のそれだ。
アイシャのように幼い頃から鍛錬してきた身体とは異なる、普通の肉体。
アイシャは、眠るシャアリィの額に唇をそっと当てて、おやすみの挨拶をした。
・・・
翌日午前、まだ貧血と倦怠感が残るシャアリィを置いて、アイシャとフランコは市街区へ買い物に出掛けた。
アイシャにしてみれば、シャアリィ以外との街歩きなど考えたこともなかった。
自分より頭一つ背の高いフランコが、随分と頼もしく見える。
『普通のひとたち』は、こういう視点で異性と一緒に歩くのだろうか、などと、益体のないことが頭に浮かんだ。
「私ではどれがいいのか分からないから、アイシャが選んでくれ」
そう言われ、アイシャはシャアリィの好みそうな色の丈の短いスカートや、シャツ、上着を丁寧に選ぶ。
シャアリィが身につけている所を想像すれば、手に持つ衣服が次々と増える。
ついでとばかりに、少し早い冬物や替えの下着も選ぶ。
フランコが少し目を離している間に、両手に抱えきれない程の荷物がアイシャの手にぶらさがっていた。
「・・・うん、いっぱい買ったね」
フランコは懐から金属のプレートを取り出し、
「西方大教会の会計局に贈答用衣類として請求してくれ」
と、伝票に署名して買い物を終えた。
どうやら、自分で支払うのではなく、教会に支払わせるらしい。
それを見て、少しばかりアイシャの罪悪感も薄れた。
「あとは、ケーキと果物、それにチョコレートの補充も欲しい」
「それから・・・」
フランコは両手を挙げ、
「お手柔らかに頼むよ」
と、だけ言葉にして、溜息をついた。




