拷問
シャアリィは完全に怒髪天。
殺されかければ、その反動は仕方ない。
しかし、それでもまだ理性が残っているのは、長い旅の中での成長の賜物だろう。
「アイシャ、蛇がやばい」
「フランコがいなかったら、間違いなく死んでた」
「残ってないか確認しよう」
「私が正面を引き受けるから、アイシャは背後に!」
シャアリィの無事を確認したアイシャが、その背後を取るべく疾走する。
シャアリィは融合個体の直下からアース・ランスでその身体を貫く。
「シャアリィ!」
「蛇は三匹残ってる・・・気を付けよう!」
アイシャは彗星棍から鵺斬へと武具を変え、毒蛇の動きに集中する。
シャアリィは正面からアイス・ブラストを浴びせ、フローズン・レイジを狙う。
融合個体はダメージを受けながらも、反撃の術式を展開。
それは中級術式の高波。
大質量の水属性術式だが、当然、シャアリィに届かない。
短縮詠唱同士の戦いであっても、水属性は発動までのラグが長い。
シャアリィのジャミングは、周囲一帯の術式を瞬間的に無力化するのだから、水属性術式ならば発動後でも間に合ってしまう。
ここにきて融合個体は術式戦に勝ち目がないと判断した。
だが、既に八本の脚のうち、五本をアイシャにもっていかれており、その役目は身体を支えることでいっぱいなのだ。
最早、届かないと知りつつも、シャアリィを牽制するには術式をバラ撒く以外に手はない。
それにも関わらず、融合個体は口角を吊り上げて嗤った。
直後、背中に生えていた三匹の毒蛇が、その身体を急速に伸ばす。
アイシャが冷静に一匹の蛇の頭部を胴体から切り離し、さらに頭頂部から刃を突き刺して仕留める。
だが、残りの二匹が唸りを上げてシャアリィの元に向かう。
左右からの毒蛇の挟み撃ちに加え、融合個体自身のウォーター・アロー。
命中必至の同時攻撃!
「何度も咬まれるかっての!」
シャアリィは、ジャミングを詠唱しながら、左へと身体を捻り、
「凍れ!」
アイス・ウォールで二匹の蛇の進路を塞ぐ。
正確な目測で放たれたアイス・ウォールは、毒蛇の頭部を氷結させ、そこに戻ってきたアイシャの鵺斬によって氷壁ごと両断された。
シャアリィはにやにやと嗤いながら、
「あなたにも地獄を味わってもらわなくちゃね」
「吸い上げろ!」
と、言い放ち、サンド・プリズンを展開した。
融合個体は、残った脚を投げ出し、砂の檻の中で藻掻き苦しむ。
「簡単に死なせるか」
サンド・プリズンを中途で解除する。
文字通り虫の息になった融合個体を見下ろし、シャアリィが告げる。
「あんた、本物のアラクネじゃないよね・・・脳みそあるよね?」
その言葉が意味するのは、コラプションの有効性。
シャアリィは、恐れることもなく、融合個体に残された蜘蛛の脚に触れ、
「腐れ!」
と、魔力を込める。
直後、神経伝達の速度で駆け抜ける致死の術式。
魔術的結合を解かれ、投げ出されるヒトの上半身。
魔石を失い乾涸び始める蜘蛛の身体。
メキメキと音を立てて崩壊する骨格。
爆ぜるように飛び散る赤黒い体液。
汚泥のように溶け出す筋組織と内臓。
絶叫すら間に合わない生体の完全破壊。
刹那で終わる痛みだけが慈悲深い。
そして、ごろりと音を立てて転がる、融合個体の魔石。
何度見ても凄まじい瞬殺致命の術式にアイシャは冷や汗を流し、フランコは瞠目する。
「今のは・・・なんだ・・・」
震える声で、フランコがシャアリィに問う。
「コラプション、私の必殺の近接術式だよ」
「触れている相手に致命の腐敗を齎す」
そう言いながら、シャアリィは融合個体の魔石を拾って、フランコに手渡す。
「まじで、死ぬとこだった・・・」
「まだ、クラクラしてるし・・・フランコ、助けてくれてありがとう」
「あんなヤバい毒、アラクネは持ってないからね」
「どうせ、頭のイカれた魔道の玩具だと思ったんだ」
戦闘が終わり、アイシャがシャアリィの変わり果てた衣服を見て、腰を抜かす。
「シャアリィ・・・本当に大丈夫なの?」
「後遺症とか、痛い所とかない?」
「帰りは背負っていこうか?」
シャアリィがアイシャに返した返答は、
「右の下半身が、まだ、かなり痛いよ」
「吐きそうだし、頭もガンガンするし、早く帰りたい」
「フランコのお願いは、本当に何時もヤバいよね」
「これからは迂闊に手伝うとか言えないね」
そう言いながらも、シャアリィは満足していた。




