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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
285/395

このままでは完全回復されるのは時間の問題だ。

アイシャのウインド・ブラストも、シャアリィのフローズン・キャノンも、見せた以上、融合個体は射程と威力を覚えてしまった。

四方五十メートルの広い玄室では、その気になれば十カウントのキャノンさえも避けられてしまうだろう。


しかし、迷宮の最下層でそれ以上の威力のフローズン・キャノンを使用すれば、最悪、崩落の危険もある。

シャアリィがこの状況を打破する一手をアイシャに提案する。


「私がスパイダー・ブレスにわざと引っ掛かって、デコンポーズを使う」

「デコンポーズは、コラプションと同様、再使用までには一分以上のクールタイムがある」

「再び、スパイダー・ブレスで罠を設置されても、その解除をするのは難しい」

「だから、スパイダー・ブレスの網を分解したら、アイシャは私を待たずに、融合個体を攻撃してもらいたいんだ」


アイシャはそれに同意する。


「了解した」

「完全回復などさせるものか」

「フランコ、シャアリィを頼む」


フランコが頷き、作戦が始まる。

アイシャを中央に残したまま、シャアリィとフランコは壁際から、スパイダー・ブレスの分解を始める。


シャアリィの指がスパイダー・ブレスの粘着液に触れた瞬間、まるで吸い込まれるように全身が網に絡め捕られる。

それだけでなく、全身にピリピリとした痛みが走り、それが麻痺毒だと気付く。

それは従来のアラクネよりも遥かに強力な捕縛の罠。

シャアリィは、全身が硬直する直前、デコンポーズの術式発動に成功する。


「解けろ!」


一瞬にしてスパイダー・ブレスは、無毒な体液へと変じ、融合個体と三人を仕切る境界は失われた。

身体に違和感は残るものの、シャアリィが受けた麻痺毒も分解され、身体に自由が戻る。


その時。


シャアリィの右の膝下に痛みが奔る。

それは、融合個体の背中にあるべき、毒蛇。

吹き飛ばした破片だと思い込んでいたものが、シャアリィの素足に咬み付いたのだ。

焼かれるような激痛が、右脚から魔核に向かって徐々に上ってくる。


「フランコ、助けて!」


シャアリィの悲鳴で、瞬時に危機を判断したフランコが解毒術式を詠唱する。


「濁りの沼、穢れの石、それを洗うは澄みし水」

「キュア・ポイズン」


シャアリィの脚の皮膚が膨らみ、裂け、まるで噴水のように血が噴き出す。

直立を維持できる筈もなく、冷たい石床に転がるしかない。

身体を浸食される恐怖に歯を食いしばり抵抗するが、それが無意味であることは明白。

余りの激痛に血尿すら染み出し、身体全身が痙攣を始める。

右の脇腹からも出血が始まり、毒が右半身を中心に浸食していく様がわかる。


「ぐっ・・・間に合うか・・・」


しかし、シャアリィをそのままに、フランコは凄惨の元凶である毒蛇を始末するために周囲を警戒しなければならない。


「あいつか!」


フランコが、壁の隅をよろよろと身体を波打たせる毒蛇を見つけ、その頭部をダガーで串刺しにした。

そのまま、首を掴んで一気に引き寄せ、毒蛇を切り裂く。


「シャアリィ!しっかりしろ、毒はもう止まった!」

「すぐに楽になる、もう少しだけ頑張れ!」


シャアリィは蒼褪めた顔のまま、荒い呼吸を繰り返す。

右のブーツの中は毒に汚染された血で溢れ、裂けた右脚も又、規則的にじわじわと出血を繰り返す。

その赤黒い血溜まりが床に広がる。


融合個体との戦闘に入ったアイシャは、シャアリィの悲鳴を耳にしても、背を向けるわけにはいかない。


「フランコォオオ、シャアリィは無事かぁあ?」


目の前の敵を始末しなければ、それを確認することも出来ない。


このままでは出血死しかねないと判断したフランコは、最上級ヒールでシャアリィの回復を後押しする。

己の髪の一房を引き千切り、それを触媒に捧げる、フランシスコ一族伝承の超高等詠唱。


「魂よ迷うな、在るべき所に戻れ、神の御許(みもと)には未だ往けぬ」

灰塵(かいじん)に帰すべきは汝に(あら)ず、その五体に祝福を、現世(うつしよ)(ことわり)の中に生きよ」

「エンジェリック・ヒール!」


落雷のような眩しい光がシャアリィの身体を包む。

瞳から一筋の涙が溢れ、消えかけていた瞳の光が戻る。

惨たらしいまでに毒に蹂躙された身体は綺麗に修復され、毒の根源は浄化された。

しかし、神経組織と脳に刻まれた凄まじい痛みの残滓は、まだ、シャアリィを苦しめている。


「がぁあああああ、痛い痛い痛い痛い痛い・・・」

「う、ぐ、ふぅっ、ふぅっ、あああああ、もうっ!」

「なんなの、この痛みはああっ!」


それは有毒種が持つ毒の中でも神経毒と並び危険な毒とされる溶解性出血毒。

血流に乗り、僅か数分で全身の組織を破壊し、致命に至る最悪の毒。


シャアリィの右下半身は、どこもかしこも血塗れ。

がたがたと震える脚に気合を入れるべく、シャアリィが両手で自らの腿を叩く。


「アイシャが戦ってるんだ!」

「行かなくちゃ!」

「動けぇえ!」


ふらふらと立ち上がり、取り落としたワンドを拾い上げる。


「絶対に許さねえ、はぁ、はぁ、はぁ・・・ぶち殺す!」


その瞳が放つ殺意は、まさに琥珀の魔女。

狂気に口角を吊り上げ嗤う。


「くふっ・・・さぁ、拷問の時間だよ」


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