術式戦闘
左右の耳の迷宮。
その特徴は複雑かつ危険に満ちたもの。
五指の迷宮よりも顕著に冒険者の侵入を阻む。
一度踏破された迷宮に教会の手が加えられれば、罠も劇的に進化するのは自然な流れ。
グリーンノウズの迷宮に挑む者は、大きく二種類に分けられる。
教会側か、そうでないか。
例え教会側であろうとも、主派か諸派かによって対応は違う。
主派であれば、今回のシャアリィ、アイシャのように、フランコの力を借りて最下層への直通路を使用出来る。
諸派、つまりは、主派の敵対勢力や態度を保留したまま、或いは新人は、先日のシャアリィ達のように過酷な迷宮を味わいながら進むしかない。
現在の西方大教会の枢機卿の一人、クリムゾン・アレクサンドル。
主派の頭目たる絶大な権力は、ちょっとした迷宮探索にも影響する。
・・・
「着いたよ」
フランコの声で、シャアリィとアイシャは臨戦態勢。
右耳の迷宮の融合個体は、アイシャの索敵範囲外から急接近、奇襲したのだから、今回の警戒は当然だ。
「アイシャ、敵は?」
シャアリィが、アイシャの索敵の報告を促す。
「いる・・・でも、動きはない」
「アラクネだからか・・・自分に有利な巣の近くまで来るのを待つつもりかな」
「まぁ、行くしかないんだが」
アイシャが後方を振り返り、事前のエンチャントをフランコに要求する。
「準備する時間があるのは幸い」
「フランコ、魔石が欲しいなら、私達が活躍できるようなエンチャントを」
フランコが素直にアイシャの要求を叶えた。
「地の守り手、風の御使い、水の戒め、炎の力」
「数多の精霊の恵み、借り受ける時は今」
「阻み、裂き、穿ち、叩く」
「力よ満ちよ、彼の敵を蹂躙せしめる為に」
「バトル・コーラス」
四属性攻撃強化、物理攻撃力と防御力、斬撃と打撃の向上、体力と精神力の底上げ。
虹色の光の柱が上がる十二節特級エンチャント。
「一番いい奴を使っておいたよ」
「さぁ、頑張ってもらおうか」
勿論とばかりに、三節棍とワンドを交差させ、シャアリィとアイシャが視線を交わす。
索敵を頼りに歩を進めるとそこにあったのは玄室。
「待ち伏せか・・・嫌な感じだね」
シャアリィの言葉にアイシャも頷く。
「ああ、だけど開けないことには始まらない」
「私が開けて先行するから、シャアリィとフランコは壁の影に」
「入室可能ならば私が合図する」
「三秒たっても合図がなければ、問題発生、要注意だ」
「じゃあ、やろう!」
アイシャの手が扉に触れる・・・するするとゆっくり扉が開く。
開き切ると同時、アイシャが足元を確認した上で、入室。
「大丈夫だ・・・」
歯切れの悪いアイシャの合図に、シャアリィとフランコは違和感を感じながらも玄室に入る。
玄室を区切るようにスパイダー・ブレスで作られた仕切りの向こう。
こちらを凝視するように融合個体は正面にいる。
シャアリィは理解し、その思惑を砕くべく吠える。
「巣に触れたら絡め取られる・・・」
「術式戦をお望み、と、いうことね」
「私を相手にいい度胸ね?」
「アイシャ、やっぱりアレが役に立ちそうだよ」
成程、と、アイシャも術式戦闘を覚悟する。
「あとは、間合いと射角だな」
フランコを残し、シャアリィとアイシャは融合個体に向かって歩を進める。
沈黙を破り、先に仕掛けたのは融合個体。
人間の耳には単なる呻きにしか聞こえないが、それは『短縮詠唱』。
まさに矢継ぎ早のウォーター・アローが仕切りを擦り抜け飛んでくる。
アイシャはそれを彗星棍で悉く撃ち落とし、シャアリィもまた命中線上のものだけをストーン・バレットで迎撃する。
超人的な技能と卓越した動体視力が為す、驚異的な防御と回避。
こうなれば手数で勝るアイシャとシャアリィが優勢。
三節棍を振り回しながら、アイシャがウインド・ブラストの詠唱を開始。
アイシャが武術で守りながら術式で攻撃する移動砲台ならば、敵の射程の外に出てチャージを開始するシャアリィは固定砲台。
その二つが、融合個体に砲撃を浴びせる!
「ウインドブラスト」
「砲撃!五カウントキャノン」
スパイダー・ブレスの網を突き破り、二人の術式が融合個体を蹂躙する。
多数の穴を身体に穿たれ、加速する氷柱に吹き飛ばされれば、さすがの融合個体も耐えられるはずもない。
その身体の欠損は全身の五割にも及び、それはまさしく瀕死の重傷。
だが、ここでスパイダー・ブレスの網が、その価値を生む。
追撃するにも、ブレスに触れずに歩を進めることは叶わない。
そしてシャアリィのキャノンは、魔力を大きく消耗する為、戦闘が継続している現在、再使用は憚れる状態。
融合個体は、辛くも回復の時間を得た。




