極秘情報
夕食は、シャアリィの手作りバケット・サンドとロースト・ビーフ。
酒のつまみと食事を兼ねたようなメニューはフランコを気遣ってのものだ。
もやもやしていたものが晴れて、アイシャも今日ばかりは少々酔う程に、酒を飲む。
「きみ達は、受難の聖女に会ったのか?」
フランコの一言で、その酔いがきれいさっぱり吹き飛んだ。
「・・・フランコは何処まで知っているの?」
アイシャは妹について話すことに少々抵抗があるようだ。
「まだ、噂の段階だね」
「ワイズリートがとんでもない少女を従えている、と、いう」
「そして、その少女の特徴が、アイシャ・・・きみに似ていると」
そこまでバレているのならば、仕方がない、と、アイシャは腹を括る。
「私も、シャアリィも、ほんの短い時間だけれど面会した」
「受難の聖女、名はリーシャ・セロニアス、私の妹」
「フランコは、リーシャの何について知りたいの?」
「言った通り、短い時間、少し話をしただけだから、教えられることは少ないよ」
アイシャも、シャアリィも、身体を固くして身構える。
「私が知りたいことは、素性、そして能力、出来ればその強さ」
アイシャが何処まで話すのか・・・シャアリィは見守るしかない。
「素性は、さっき言った通り、セロニアス宗家直系第六子、年齢は十六才」
「能力については不明、但し、相当高い能力を持つ陰根源転換術師」
「その実力は恐らく、シャアリィよりも数段上」
「所持術式は全く不明、固有の能力は私の知っている限りでは暗記、暗算、速読」
「幼い頃から足が悪く、セロニアスの武術は習得していない」
フランコはほぼ想定内の内容に満足したようだ。
だが、それは同時に脅威でもある。
「シャアリィよりも数段勝る・・・のか」
絶句するフランコに追い打ちを掛けるように、アイシャが言う。
「ええ、教皇から『混沌』の称号を与えられているそうよ」
教会において、教皇や枢機卿から称号を与えられることは、十年に一度あるかないかの名誉であり、それを教皇から与えられたということは、アイシャの情報に偽りがないことを示している。
「ふっ、ふふふふ、成程・・・受難の聖女、リーシャ・セロニアス・アビスか」
飄々としたフランコの笑みは、口角を吊り上げた嗤いに変わったものの、噂が単なるイメージから具現化したことによって、その不敵な笑みはすぐに消えた。
「バンシィを術式で捻じ伏せるシャアリィよりも、強い・・・」
「一体、どんな化け物に仕立てたんだ・・・ワイズリートめ」
フランコはシャアリィに尋ねる。
「実際、きみと受難の聖女が戦ったならば、どうすれば勝てる?」
シャアリィは、あのフローズン・ドラゴンよりも恐ろしい相手を思い出すだけで鳥肌が立つ。
「そんなの、私が知りたいよ・・・」
「勝てる気なんて・・・しない」
その怯えた様子に、フランコが『パンっ』と手を叩き、
「済まないね、飲み直そう・・・」
「あとは、私自身が考えなければならない問題だ」
「そういえば、このロースト・ビーフ、なかなかに美味しいじゃないか」
「夕方開けたワインも、なかなかに上等だったし」
「アイシャは、いい嫁を貰えそうだな」
見え見えのお世辞や冗談でも、ないよりはいい。
だが、アイシャは少しばかり話を続けた。
「私達は、フランコに借りがある」
「だから、問われれば、何でも答える用意がある」
「それだからこそ、あの子とフランコは敵対してほしくない」
「気休めでもいいから、約束してくれないか」
アイシャの言葉を噛み砕くようにフランコは長考し、アイシャを見つめて言葉を紡ぐ。
「ああ、わかっているよ」
「勿論、敵対するために聞いたんじゃないさ」
「むしろ、私としては争わないために情報が欲しかった」
「この話は、決して他言しないことを誓おう」
「出来る限り、争いを避けることも約束する」
シャアリィはわかってしまっている。
もしも、その時が来たならば、それは自分とリーシャが対峙する時なのだ、と。
この予感をアイシャに気付かせないように、シャアリィはアイシャの髪を撫でる。
「この似非神父は約束を守る男だよ」
「アイシャ、心配することなんてない」
『出来る限り』というのは、便利な言葉だ。




