ブラットン・ジョンソン
夕暮れ前に十六番教会にシャアリィとアイシャは戻ってきた。
フランコの就業が終わる午後五時までには時間もある。
恐らくは、今日も信徒の来ない礼拝堂で、酒を飲みながら本でも読んでいるのだろう。
と、言っても、それを咎める理由もない。
ここはフランコの職場、フランコの邸宅、シャアリィとアイシャは居候。
立場は弁えている。
酒の味には疎いシャアリィが、少々値の張るワインのボトルを昨日の無駄足の詫びにとフランコに持ち帰ってきた。
フランコは二人の予想に違わず、懺悔室に陣取り、ちびちびとやっていた。
「ただいまー、これ、昨日のお礼と言うかお詫びというか、です」
と、シャアリィは手に持つボトルをフランコに差し出す。
タイミングが良いのか、悪いのか、フランコはそれを受け取りラベルを眺めた。
「ちょうど、空きそうだったんだ」
「取りにいく面倒が省けて助かるよ」
と、通常運転。
アイシャは先ほどのジョンソンとの遣り取りが、少々、脳裏に残っていた。
「フランコ・・・ジョンソンってどんな奴なんだ?」
アイシャの質問に、フランコは興味を示した。
これまで聞かなかったことを今聞くというのは、やりこめられたか、その逆か。
どちらにしても、教えておいた方が無難だと判断したフランコは、
「あいつはね、ああ見えて結構いい奴なんだ」
その一言に、シャアリィとアイシャは揃って驚く。
「ただの女好きの守銭奴にしか見えないんだが」
という、アイシャの言葉に頷きながら、フランコは続ける。
「男ってのは、皆、女、特に美女は大好きさ、そりゃ、本能ってやつだ」
「そういうのを差し引いても、ジョンソンは悪い奴じゃあないね」
「そもそも、あいつが金、金、金になったのは、あいつの兄貴が莫大な借金を背負ったまま首を括っちまったせいなんだよ」
「生活苦に悩まされ兄貴の女房も後追いで首を括って、孤児になりかけた姪っ子を拾い、自分の結婚は後回し、一族に降りかかった借金返済のために冒険者稼業に足を踏み入れ、働けなくなった自分の母親をも養い・・・そんなことをしてたら、誰だって捻くれ者になるだろう?」
「そんな境遇でありながら、悪事らしい悪事と言えば、職権乱用、ピン撥ね、チョロまかし」
「その程度なら、神様もきっと御目溢しして下さる、と、私は思うね」
「この街で生きるなら、教会、セブール、領主のいずれかに態度を決めなくちゃならない中で、あの男は隙間を縫うように今日まで生きてきた」
「ちょっとペテンが回るのが曲者の家族思いの男、私が知るジョンソンとはそういう奴さ」
アイシャは絡繰りを知って、思わず零す。
「経費削減じゃなかったのか・・・」
それにさ・・・と、フランコが続ける。
「どれだけ依頼があろうとも、この街の冒険者ギルドが再び活性化することはないんだよ」
「少なくとも教会とセブール商会が健在のままではね」
「他の迷宮都市と違って、この街では魔石が売り物にならない・・・」
「目立つ冒険者がいれば、セブールが摘まみ上げてしまう」
「冒険者ギルドに回る依頼なんていうのは、汚れ仕事か、危険極まりないものくらい」
「きみ達のような、規格外の者にしかこなせないようなね」
「必然、領主から割り当てられる予算も少ない」
「だが、領主にも面子があるから、無くすわけにもいかないだろう?」
「そりゃ、そんな仕事定年前に上がりたいだろうさ」
シャアリィがフランコに尋ねる。
「追加のカードが悉く賞金首ばかりっていうのは?」
少しばかり考える間を置いて、
「次の仕事を考えてのことかもね」
「冒険者ギルドが賞金首を捕えれば、領主も、教会も、衛兵監督署も喜ぶ」
「治安は僅かに良くなり、教会は『薪』を手に入れる」
「成果が大きければ、監督署の要職に就くことだって可能だろう」
「グリーンノウズは、魔物はアンデッドだけだが、犯罪者は選り取り見取りだ」
「ジョンソンは、実入りが良くて、食いはぐれることのない椅子を手に入れる、と」
成程、と、アイシャは納得する。
シャアリィも又、ピタリと嵌ったパズルのピースに微笑む。
「私達はここから、ジョンソンが持っている私達好みのカードだけを引き続ける」
「奴の用意したネームドという見せ札は、私達の切り札に化けた」
アイシャがにやりと嗤い、シャアリィも頷く。
「ここから、ずっと私達のターンだ」
フランコが、そこに割り込む。
「そろそろ、私のターンではないかね?」
それもそうだ、と、三人は笑った。




