一触即発
討伐依頼:賞金首ラルゴ・サンダース
討伐報酬:dead金貨一枚、alive金貨十枚
・・・アイシャの目に静かな怒りが宿る。
「ここは何時から衛兵監督署の管轄になったんだ?」
「まさか、見せ札以外、全部、賞金首じゃあるまいな?」
「いい加減にしろよ」
ひとは本当に怒りを胸にした時には怒鳴ったりしない。
どうにもならないことに腹を立てて暴れるのは、所詮は小物だ。
それはジョンソンにも当然伝わっている。
「俺の指定するカードは、これだ」
ジョンソンは太い人差し指で、テーブルの上のカードをコツコツと叩く。
その顔に何時ものにやけ笑いはない。
「嫌ならネームドでも、宝探しでもすりゃあいい」
「ここは間違いなく、冒険者ギルドで、俺がそれを仕切るギルド・マスター」
「脅された所で、シャッフルなんてしない」
「こっちも生活掛かってるんでね」
シャアリィがジョンソンの言動の矛盾を突く。
「生活掛かってるなら、私達が気持ち良く稼げるようにしたら?」
「その方が、あなたの利益にもなるでしょう?」
「どうして、私達を誘導することに必死なの?」
「あなたは、賞金首を私達に狩らせることでお金以上の何を得るの?」
今まで交渉担当はアイシャとばかり思っていたジョンソンが口籠る。
苦し紛れに吐き出した言葉は、
「別にやらないなら、それでいい」
「ゲームは終わり、それだけだ」
「お前達は、掲示板に張られている民間からのお使いで駄賃を稼ぐしかなくなる」
「さぁ、どうする?」
話を逸らし、決断を迫る。
アイシャの冷たい視線がじりじりとジョンソンの精神を浸食する。
殺意とは異なる糾弾の視線に焼かれ、ジョンソンはドレッド・ヘアを振り乱してバインダーを叩いた。
「わかった・・・このカードは撤回する」
「討伐候補からも外す」
「少し、時間をくれ」
「満足できるものを用意しておくから、明日の正午にここで」
額から吹き出す汗をぬぐいながら、ジョンソンは仕切り直しを提案した。
アイシャは、自分達の要望を突き付ける。
「相手は魔物、少なくともレベルアップの足しになるような奴だ」
「ギガンテス・ゾンビィは、確かにボーナス・ゲームだが、それはお互い様だ」
「九十枚の金貨と、名有りの魔石の権利を捨てるなら、それもよし」
「思惑通りに事が進むと思っているなら、少し改めてくれ」
「私は、これでも、双方に利益があるように交渉しているつもりだよ」
「じゃあ、明日を楽しみにしている」
シャアリィはティアラを回収し、ポケットに仕舞う。
それを合図に、アイシャは、帰ろう、と、シャアリィに告げた。
・・・
未だ陽の高い海岸線から、カフェテリアのドルフィン・テイルが見える。
今から狩りに出掛ける気分でもなくなった二人は、防波堤を駆け下りて、閑散とした砂浜を歩く。
ドルフィン・テイルの店内に客の影はなく、一見すると閉店のように見えた。
だが、従業員が中にいるということは営業中だ。
オープン・テラスの日除け傘は畳まれているが、座れる席は他にもある。
「いらっしゃいませ」
この街の店としては、上品な部類に入る挨拶にシャアリィが手を振り応じると、
「お好きな席にお掛け下さい」
という、貸し切り状態。
「アイスティを甘めで下さいな」
シャアリィの注文に合わせるように、アイシャも、
「私は甘さ控え目で」
と、簡潔にオーダーを終える。
「まさか、ジョンソンが妥協するとは」
「シャアリィの指摘が余程痛かったんだろうね」
シャアリィは、それよりもアイシャの視線が怖かったからだ、とは、言わない。
「まぁ、あれはナイよね」
「中継地点の衛兵所に貼られてる賞金首だって、もっと上等なのがいるし」
「喧嘩売ってんのかって、アイシャに怒られなかっただけでもマシ」
そう脅して態度が変わるような奴ならば、きっとアイシャはそうしていただろう。
主導権の綱引きを少し取り戻したことに、二人は安堵した。




