新月の墓地
面倒くさがりで怠惰を絵にかいたようなフランコを落日の教会まで付き合わせるのは、シャアリィもアイシャも多少の引け目を感じたが、魔人の隠れ家だった墓地ならば用心に越したことはない。
「ちょっと人使いが荒くはないかね?」
フランコの不貞腐れは当然だが、それでも付き合ってくれるということは、多分、何らかの頼み事があるのだろう、と、想像出来る。
「あそこにゃ、もう、何にも残ってない」
「二人でも十分だと思うんだけどなぁ」
「それに、私もバンシィははっきり言って好きじゃあない」
「否、きっと誰もが嫌な相手さ」
そう言われると、別の意味でシャアリィはフランコを担ぎ出したくなる。
どうにも底の見えないフランコという男の弱みの一つくらい、見たいものだと。
・・・
秋の夜は長い。
内陸育ちのシャアリィは、潮風は匂いも塩分もあって好きになれない。
それに・・・そう、似ているのだ・・・腐敗臭に。
今日は新月、高台の墓地を照らすのは星明りのみ。
悪霊たちにとって、最高のステージ。
虫たちのアンサンブルに交じって、低木に留まるフクロウの声が不気味に響く。
『教会指定禁足地』
:行方不明者多発地域
:不要の者の出入りを禁ず
教会へ伸びる街道の途中に、立て札があった。
すでに落日の教会跡地には、ゆらめく白い影がちらほらと見える。
「さて、どうするね?」
「私はのんびり観戦しながら、万一の時に治癒でもすればいいんだろう?」
「先陣に立って悪魔祓いは御免だよ」
おずおずとアイシャが先頭に立つ。
「ああ、いてくれるだけでも、助かるよ」
バンシィを知らないシャアリィは、事も無げに、
「私が先陣でもいいよ?」
「あぶなくなったら、交代で!」
気分が乗らないアイシャを尻目に意気揚々と歩を進めた。
「うわぁ・・・ふわふわゆらゆら、いっぱいいるねぇ」
「さて、先制攻撃と行きますか」
「ファンファーレは、五カウントで!」
アイシャが制止する間もなく、シャアリィはチャージを開始。
「三・・・二・・・一」
アイシャが気付く、それは『悪手』だと。
しかし、もう遅い。
「砲撃!」
十体程のバンシィを巻き込み、シャアリィのフローズン・キャノンが墓地の地面を大きく抉る。
吹き飛ばされた土砂から、幾つもの人骨が飛散する。
直後放たれる、呻き、悲鳴、絶叫・・・
アイシャは脳を焼かれるようなバンシィの叫びに、思わず耳を抑える。
その視線の先には、シャアリィ目掛けて飛んでくる多数の衝撃波。
アイシャはシャアリィの集中被弾を覚悟し、治癒術師の名を叫ぶ。
「フランコォオオオオオ!」
名を呼ばれたフランコが、先んじて上級ヒールの詠唱を開始。
しかし、その詠唱は途中で途切れた。
「壊れろ!」
シャアリィのジャミングが周囲一帯を沈黙させ、バンシィ達の叫びすらかき消し、放たれた無数の衝撃波は何事もなかったかのように霧散する。
さらにシャアリィは「散れ!」と、アイス・ブラストを撒き散らしてバンシィを追撃。
その圧倒的な対空防御にフランコは驚嘆の言葉を漏らす。
「嘘・・・だろ・・・」
二人の困惑に構うことなく、アイス・ランスで残りのバンシィを一つ、また一つ、叩き落としてゆく琥珀の魔女。
狩りとさえ呼ぶべきでない、それは一方的な虐殺。




