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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
273/399

落日の教会

かつて街で暮らせなくなったマーヴェリック・エルゴ・ダインが隠れ住んだとされる廃番となった教会は、一見すると人里離れた高台にある広大な墓地にしか見えない。

教会というには、礼拝堂や祭壇を備えた建物がなくてはならないが、そこにあるのは粗末な小屋、天井も既になく、土台と倒れて朽ちた柱のみが、放置されている。


潮風と雨に晒され続けた無数の墓石に読める文字は一つもない。

否、最初から墓石に文字など刻まれてはいない。


墓石がある者はまだ上等だ。

流行り病などが通り過ぎた後には、名前のあるなしに関わらず、ここに捨てられた骸も多い。

それは人生の否定、冒涜、破壊。


吹き溜まった憎悪は動く屍とならずとも、悪霊となり、悪しき妖精を呼び、生者という贄を求める。

哀しいことに、墓地に埋められてしまった以上、この地を離れることさえも出来ず・・・。


死罪人、行旅死亡人(ゆきだおれ)、身分剝奪追放者。

名前がわからない、名前を残してはいけない、そういう者の遺骸が集められ埋葬される場所。

当然のように信徒の寄付はなく、大教会から投げられる埋葬報酬だけが収益の寂れた教会。


落日の教会とは、そういう教会なのだ。


だが、マーヴェリックにとって、この教会は楽園だった。

日々、朽ちてゆく四肢の代替えが、ここには無尽蔵にあり、礼拝に来る者など存在せず、墓に祈りを捧げる者もいない。

異形と化した自分を嫌悪と侮蔑の視線で見る者は、誰一人いない。

孤独と引き換えにしても、この場所がエルゴ・ダインにとって唯一魂安らぐ場所だった。


人間の友はいなくとも、此処にはたくさんの骸がある。

魔道の探究には、これ以上の場所はない。

彼の遺した魔物達は、長い時を経ても尚、現世(うつしよ)に留まり続ける。


・・・


旧世界の伝承に登場するバンシィは叫び声で死を予告するだけの妖精だったが、この世界でのバンシィは少々厄介な性質を持っている。

蒼い肌、赤い目を持ち、浮遊しながら人を襲う。

可聴域をも超える金切り声を上げ、その身からは風の衝撃波を放つ。

時に、死の詩を謡い、その声は聞く者の平衡感覚を奪う。


「バンシィは、本当に嫌なんだ・・・」


アイシャは何度も繰り返す。

シャアリィは、まだ、バンシィというものを見たことがない。


「強いってわけじゃないんでしょ?」


と、シャアリィが問うと、アイシャは強くはないが、と口籠る。


「あの声は本当に気持ちが悪い・・・呪詛でも掛かっているんじゃないかって」

「生理的に忌避する声だよ・・・シャアリィも一度聞けばわかる」

「それにね、手応えが薄いんだ・・・斬れるものの、感触が気持ち悪い」


ゾンビィを楽しそうに粉砕するアイシャが、これ程の嫌悪を示すことは珍しい。


「まぁ、どれくらいのものか、楽しみにしとくよ」

「他にもなんだか魔物がいるみたいなことジョンソンが言ってたね」


アイシャには、その魔物に心当たりがある。


喰屍鬼(グール)、グレイブミスト、あたりだろう」

「両方とも攻撃的だが、シャアリィにとって警戒すべき相手ではないよ」

「グレイブミストは、私にとっては少々相性が悪いが、倒せない程ではない」

「グールはゾンビィに似てるが、脚の速さが全く違う」

「それだけは注意してね」


聖職者ならば、どの魔物も効果的に殲滅出来るし、悪霊というカテゴリであれば、倒した所で徳に瑕を受けることもない。

それが何故、放置されているかと言えば、落日の教会が司教以下の教会関係者にとって禁足地であるからに他ならない。

そして、近隣に人間が居住しているわけでもなく、苦情もないならば、わざわざ狩る必要がない。

と、言うことだろう。


今回の狩りは、魔物の特性上、夜の狩りになる。

アイシャの夜目、シャアリィのエンチャントされた目ならば、障害物さえなければ戦闘可能。


「フランコも連れて行こう」


思い付きのようにシャアリィが言う。

夜という不利がある以上、備えは必要だ。


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