カード・チェンジ
フランコは天井を見上げ考える。
腕を組んで、長考・・・まるで何もかもを知り尽くした普段のフランコに似合わない真面目な表情。
たかが五分程の思考時間だが、フランコは自らの『決め付け』を認める。
「そうだ・・・シャアリィの言う通り、迷宮に潜み続けているというのは状況的な考察に過ぎず、証拠は何一つない」
「この街でのセブール商会の影響力、支配力を考えた時、それが尤もな答えだというだけだ」
「もし、一緒にいる場面を見られたら言い逃れ出来ない」
「示し合わせた場所に物を運ぶのと、匿うのではワケが違う」
「考えれば考える程に、他の答えがない・・・それだけだ」
アイシャは自分の知る限りで、フランコよりも頭がキレる者を知らない。
当然、辻褄というならば、フランコの話のほうが信憑性が高い。
「シャアリィは、どうして、普通に暮らしてるって思うの?」
逆にシャアリィの推論を崩す方が容易い。
「あくまで、そんな気がする・・・と、いうだけの話」
「タウロス狩りの時、どれ程、あの罠に満ちた迷宮が恐ろしかったか・・・」
「もしも、迷宮の中で暮らせるのなら、人形師もアイシャのような優秀な斥候の能力を持っていることになるじゃない」
「私は、アイシャと一緒でなければ、ここの迷宮には潜れない」
「魔物に負けなくとも、罠は回避出来ない」
シャアリィには、右耳の迷宮の罠の恐怖が、べったりと張り付いている。
結局、このままでは所在を掴む方法は見えない。
それだけが三人の共通認識になった。
「少なくとも、次の強盗事件が起きるまでは、足跡ひとつ見えてこないね」
と、フランコは言い残し、席を立つ。
残されたシャアリィとアイシャは、頭を抱え込む。
今回のミーティングは、人形師の所在を絞り込む所か、その範囲を広げるような結果になった。
アイシャは状況を判断して、
「人形師を探すのは、今は、まだ時間の無駄だな」
「バンシィにしようか」
「正直、私はアレが大嫌いなんだが、人形師を放置するなら、次のカードが欲しい」
「対人戦闘は、魔物を倒すより経験値の入りはいいが、所詮、一人、二人では足しにもならない」
「それなら、少しでも魔石を集めて、シャアリィの術式を追加するほうがいい」
アイシャの言葉に、シャアリィも頷く。
「まぁ、魔石取りだけなら、薬指の迷宮に籠れば数は揃うよね」
「重要なのは、アイシャの経験値の足しになること」
「そう考えれば、バンシィか名有りの二択」
「それでいこう」
・・・
翌日、冒険者ギルドにて、シャアリィとアイシャは討伐目標の変更をジョンソンに告げた。
「バンシィね」
「信じるか信じないかは判断に任せるが、ここのバンシィはマーヴェリックが呼び出したものの残りらしいから、注意するに越したことはないぜ」
「特にセロニアス・・・あれはソード使いのお前には結構キツい」
「目に見えにくい風の衝撃派は近接にとって結構な脅威だ」
「傷を負わせれば、精神を焼き付くすような悲鳴を浴びる」
「討伐の対象はバンシィだけだが、あそこには他にも有象無象いるぜ」
まるで、シャアリィとアイシャが傷付くことを喜ぶかのように、ジョンソンは饒舌に語る。
だが、シャアリィは不思議なことに昨日のような違和感をジョンソンに感じない。
「まぁ、今の所は大人しく、あんたの老後資金のために働くさ」
「だから、次のカードは、もっとマシなのを用意してくれ」
アイシャが目を細め、不機嫌を露わにしても、ジョンソンはにやけたままだ。
「最初に極上のカードを見せただろうが」
「お前らにすれば、ぶっちゃけ、ボーナス・ゲームだろう」
「なんで、温存してるんだよ?」
「さっさと、大物やりゃあいいじゃねえか」
名有り討伐を先に延ばす理由はない。
ただ、何となくというだけだ、ショート・ケーキのイチゴのように。
「焦らしてるんだよ」
「何時でも食えるデザートを先に食べちゃつまらないだろう?」
アイシャの選択が正しいのか、裏目なのか。
それはシャアリィにも、アイシャにもわからない。
ただ、感じているのは、完全にペースを握られつつある不快感だけだった。




