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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
269/395

不服

一日の報酬が金貨五十枚(五百万円)・・・他人が聞けば羨むことだろう。

だが、それが死と隣合わせの仕事で、しかも、卓越した技能がなければ失敗する可能性の方が遥かに高いならば、ベテランの冒険者でも手は出ない。

ジョンソンが言う通り、イカれた奴か、本物か、依頼を受けるのはどちらかだろう。


迷宮の外に出れば、まだ落日までに少々の時間が残されていた。

面倒事はなるべく早く片付けるに限る、と、シャアリィとアイシャは冒険者ギルドに向かう。


「ジョンソン!ジョンソオオオオン!」


受付婆の悲鳴に近い呼び声で、ギルド・マスター『象』こと、ジョンソンが奥の扉から顔を出す。


「随分と早い戻りだが、途中で打ち切ってきたのか?」

「まぁ、ちゃんと五体満足で戻って来るあたりは、さすがはネームド・キラーズ」

「追加の情報がいるなら・・・ん?」


ジョンソンの言葉を遮るように、アイシャが、ナップサックのタウロスの魔石をカウンターの上に、ごろごろと転がす。


「終わったよ、最初の一枚」

「次のカードをくれ」


驚嘆したジョンソンだが、これだけでは討伐完了を決めるには、まだ早いとばかりに、アイシャに質問を投げる。


「扉横の燭台・・・あれがクエスト完了かどうかのサインなんだが」


やはり、と、言わんばかりにアイシャが涼しい声で答える。


「青色の燭台の炎は、タウロスを駆逐したら消えてたよ」

「さすがにアレの変化を見落とす程、間抜けじゃないさ」


相変わらずのにやけ顔をさらに破顔させて、ジョンソンが素っ頓狂な声を上げる。


「ブラボー・アミーゴ!」

「文句なしの討伐完了、カードの前に報酬の受け渡し、それと、俺の取り分の精算だ」


バインダーの仕舞ってあった金庫から、ジョンソンが両手いっぱいの金貨を持ってくる。

それをテーブルに置き、金貨の山から三十五枚を数え、アイシャに手渡す。

同じように十五枚を数え、自分用の革袋にそれを放り込む。


「これで、タウロス・ゾンビィ討伐は終了だ」

「受領証にサインを」


そこに書かれている文面に、小さなため息を零しつつ、名前を書き入れた。


依頼内容:右耳迷宮派生玄室内、タウロス・ゾンビィ殲滅

討伐報酬:金貨五十枚

完遂署名:アイシャ・セロニアス


その溜息は、金貨十五枚を、自ら労することもなくジョンソンが見事にせしめたことに対する、ささやかな抗議。

自分が、そしてシャアリィが、命懸けの綱渡りをして得たものを掠め盗る悪党への怒り。

それでも、まだ、この取引を続けるしかレベルアップへの近道がないという諦め。


多少、大振りで普通のゾンビィの魔石よりは若干多く魔力が含まれてはいるものの、タウロス・ゾンビィの魔石に特別な価値はない。

このグリーンノウズでは、暗影の魔石の買い取り値は、お使いの駄賃のように安い。

だが、シャアリィにしてみれば、この魔石は術式獲得に使える貴重なアイテム。


「これは提案だが・・・」

「ここに暗影の魔石を売りに来る者がいたら、買い取っておいて貰いたいんだ」

「それを私達は倍の値段で買い取る」


アイシャがジョンソンに提案したのは、教会よりも高い値で買い取るというビジネス。

しかし、ジョンソンは首を縦に振らなかった。


「キラーズ、それは立派な背信行為だ」

「このグリーンノウズじゃ、暗影の魔石は全て教会が買い取ることが決まってるんだよ」

「ギルドで一時買い取りはするが、それも全部、教会が買い取る」

「売る、売らないは勝手だが、何処に売るかは変えられない」

「違反者は罰金程度じゃ済まされない」

「俺だから聞かなかったことにするが、魔石回収を誰かに依頼するのもご法度だ」

「外じゃあ口が裂けても、そんなことを言うなよ」

「意地悪で言っているんじゃあない」


言われて思い出す。

教会がどうやって、この迷宮を維持しているか、ということを。

それを知っていること自体を悟られてはいけない、ということを。


「ああ、わかった」

「教えてくれてありがとう」

「危うく重罪人になるところだったよ」


アイシャは、そう取り繕うだけで眩暈を覚えた。


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