闘牛その六
微塵切り。
そう表現するに相応しいアイシャの斬撃は、目の前の巨体を次々と解体する。
それでも解体しただけでは、タウロスの魔石は露出せず、結局、その胸から魔石を抉り出す作業が必要になる。
シャアリィも又、アイス・ブラストで足止めしてからの、アイス・ランスでタウロス・ゾンビィを行動不能にする。
かなり魔力を使うことになるが、腐肉に手を突っ込む気にはなれないシャアリィは、行動不能になったタウロスをサンド・ブラストで磨り潰す。
手を汚さずに魔石の回収が出来るとわかれば、あの極悪な魔力回復剤を飲む方がマシだった。
それでも足りなければ、アイシャに援護を要請し、サンド・プリズンを展開。
さすがに普通のゾンビィを片付けるのとは訳が違う。
それでも、シャアリィもアイシャもたった一度の被弾もなく、最初の一体を含めて、合計二十六体のタウロス・ゾンビィを駆逐し尽くした。
「玄室内の難度は思っていたより楽だったね」
と、魔石をナップサックに放るアイシャがシャアリィに語り掛ける。
「楽だけど、不快度は思った以上だよ・・・」
「手早く魔石を回収して、まずは玄室を出よう、うぷっ」
シャアリィの言う通り、この限られた空間に腐肉が撒き散らかされているのだから、想像を絶する不快であることに違いない。
但し、腐敗臭に限れば、人間のゾンビィよりは、かなりマシと言える。
深く遺伝子に組み込まれている危険のシグナル・・・同族の遺体は、疫病感染のリスクが他の種族よりも圧倒的に高い。
如何にシャアリィが危険に対する注意力が欠落しているとは言っても、嗅覚から脳に直接訴えかける危険は無視出来ないのだろう。
二人は、それ以上、言葉を交わさず、魔石の回収に専念した。
全てを終え、玄室の外に出ると、青かった燭台の炎は消えており、この玄室が何らかの役目を終えたことを知る。
まるで『生簀』のように一つの部屋に集められたタウロス・ゾンビィ。
何に使われていたのか、或いは何に使われるはずだったのか等、シャアリィやアイシャにわかる訳もなく、知りたいとも思わない。
どうせ、例の如く、魔道探究者か教会関係者の狂った実験に起因することだけは間違いないのだから。
「クエスト完遂の証拠って、多分、燭台の明かりが消えたことを報告すればよさげだね」
「玄室の中にタウロス・ゾンビィが何体いたかなんて、きっと、クエスト発注した教会の人間もわかってないだろうし」
シャアリィはアイス・ウォールで水を冷やしながら、クエスト達成条件がなかったことに遅蒔きながら気付く。
アイシャがシャアリィの冷やした水筒を受け取り、喉に流し込んでから、
「まぁ、タウロスの魔石回収も指定されてないくらいだからね」
「実験室の空きが欲しかった、とか、その程度の理由かもね」
「フランコなら、もっと簡単にここに来る方法知ってたんじゃないかって、そっちのほうが私は気に掛かっている」
「確認しなかった私も悪いけれど、もし、あったなら、黙ってるフランコもフランコだ」
そう言われて、シャアリィは思い出す。
又、あの悪辣な十字路を帰らなければならないのか、と。
勿論、マッピングはしてあるし、罠の配置が変わってなければ、大した問題ではない。
それでも、警戒していなければ、足元を掬われかねない。
ここはグリーンノウズ、なのだから。




