闘牛その五
派生玄室まで短い通路は一直線。
アイシャは床、壁面、天井を隈なく確認しながら歩を進める。
奈落への直行便たる、先ほどのシューター以外に、罠の形跡はない。
「うっかり落ちないように、ちゃんと飛び越えてね」
シャアリィは、勢いよく踏み切り、その身体をアイシャが抱き止める。
「これで金貨五十枚は安過ぎる!」
「命の値段なんだから、三倍、四倍でも足りないっ」
アイシャは、憤るシャアリィの頭を撫でて、
「仕上げがまだ残ってる」
「それまでは辛抱だよ」
と、冷静になるように促した。
派生玄室の扉も又、魔法の燭台に照らされている。
しかし、その燭台の色は普通の炎と異なる青色。
如何にもここが目的地であると、自らが示しているかのような雰囲気。
「さぁ、鏖殺の時間だ」
「魔力切れだけには気を付けて」
「殲滅が追い付かない時は、ヤバくなる一歩手前で、通路封鎖で離脱距離を稼ごう」
アイシャの指示に、シャアリィが頷き、
「じゃあ、開けるよ」
アイシャの手が扉に触れると、扉がするすると動き始める。
まだ、開ききってもいない隙間から、角をねじ込み、強引に扉を開けようとするタウロス・ゾンビィの脳天と胸にアイシャの彗星棍の石突が突き刺さる。
それを引き抜き、今度は脳天目掛けて打撃一閃。
真っ二つにされたタウロスが、床に転がりながらも、まだ藻掻いている。
「こりゃあ、骨が折れそうだ」
アイシャは、少しばかり思案した後、彗星棍を仕舞い、鵺斬を抜刀。
「微塵切りしかなさそうだ」
と、獰猛に嗤う。
それに触発されたように、シャアリィも又、ランスの大盤振る舞いを決め込んだ。
広い玄室にいるタウロス・ゾンビィ、その数二十五。
普通のタウロスならば手に持っているはずの鈍器はなく、ただ、半ば腐り落ちた徒手空拳と突進のみの稚拙な攻撃。
ゾンビィ特有の不安定で遅い脚運びによる突進は、シャアリィでさえも容易く躱せる。
この数のゾンビィを相手にするのは、普通の冒険者には手に余るが、シャアリィとアイシャには、その心配はない。
五発目のアイス・ランスを放ち、魔力の消耗を少し感じたシャアリィが、アイシャに援護を求める。
「プリズンを展開して、魔力を回復するから、その間、守って!」
アイシャはそれを了承し、殲滅から防衛にシフト。
鵺斬を仕舞い、再び、彗星棍へと持ち換える。
「成程、それは良いね」
「終わったら教えてくれる?」
シャアリィは首肯を返し、サンド・プリズンを短縮詠唱で発動。
「吸い上げろ」
シャアリィに襲い掛かる一頭のタウロス・ゾンビィが、砂の檻に囲まれた。
直後、腐った声帯からくぐもった悲鳴が上がる。
砂の檻の中で、膝を折り、藻掻きながら、天を仰ぐタウロス・ゾンビィ。
その檻から漂う紫の煙が、シャアリィの指先に消えてゆく。
僅か二十秒、全てを吸い尽くされたタウロス・ゾンビィは、魔石だけを残して消滅した。
「ん-、完全回復にはちょっと足りないか」
「アイシャ、終わったよ!」
それを横目で見ていたアイシャは、その規格外の術式に戦慄した。
単独で使うのは難しいスキルだが、臨時の魔力回復という離れ業。
さすがのアイシャも苦笑いしかない。




