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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
266/399

闘牛その四

地下三層手前。

シャアリィは服を脱ぎ、体中を湿らせる汗を拭う。

今は普段のようにアイシャに甘える気力もない。

二階層では幾分マシだった腐敗臭が、階段下から漂ってくるのだから、無理もない。

アンデッドの迷宮は、シャアリィにとって、潜るだけで気力を削ぐのに十分。

しかし、これがフローズン・ドラゴン討伐への道に繋がっていると思えば、失いつつあった気力も、また、滾りを見せる。


十二分に休息を取り、アイシャがコンパスを確認する。

イルオールドや、レリットランスのような火山性の鉱物資源が豊富な迷宮では、コンパスが役に立たないこともあるが、右耳の迷宮内ではコンパスはその役割を失っていない。


理由はわからないが、殆ど全ての迷宮はきっちりと東西南北を基準に設計されている。

恐らくは広大な迷宮を作る時、すぐに誤差を発見できた方がやりやすかったのだろうと、学者の間では考えられている。

大きな建物は僅かな誤差があれば、最終的に大きな設計の狂いが生じる。

如何にも本当の理屈である、と、皆、思っている。


金貨五十枚。

それは贅沢しなければ一年暮らせる額。

それを短期間で得るのだから、相応の危険はある。

しかし、ここまでの道程を考えれば、その価格が対価として正当とは言い難い。


「さて、そろそろ大丈夫かな?」


アイシャの確認で、シャアリィが声を上げる。


「キャラメル、口にいれとこう」

「もう、ここまで腐敗臭がしてるんだから、手遅れだけれど、多少はマシになるよ」


アイシャに紙の包みを渡し、シャアリィは気丈に笑う。


「おやおや、ご予約のお客様がいっぱいだねっ!」


そう言いながら、アイシャが彗星棍でゾンビィの塊を一掃する。

着地場所を確保したことをシャアリィに視線で知らせると、一層の時と同じフォーメーションで乱獲しながらの行軍が始まる。


「まずは、南壁面へ」


アイシャが行く先を示し、シャアリィも手短に答える。


「了解」


下り階段を探しながら殲滅していた一層よりも、この三層では目的地が分かっている分、気楽にやれる。

そう思っていたアイシャが、壁の凹みに罠を発見する。


「シャアリィ、壁面に仕込み槍だ」

「こっちのルートは使えない」

「戻ろう」


何処までも一筋縄で行かない迷宮に、アイシャも僅かに苛立つ。

来た道を戻り、逆方向からのアプローチ。

無駄足を踏まされたが、その数分後には、一対の明かりに照らされた扉を見つける。


あれが、素直に開いて、通路に繋がっていればいいのだが・・・

アイシャは最悪の事態を想定し、シャアリィに扉両側の封鎖を求めた。


「凍れ!」


アイス・ウォールの短縮詠唱で突入の準備は整った。


「あとは、この扉の向こうに厄介な罠がなければいいんだが・・・」


呼吸数拍、気持ちを整えて、アイシャが扉を開く。

初見殺しを慎重に見極めていた、アイシャの勘は当たった。


扉の先に通路はあるが、その通路に至る最初の一歩目の床が、


ない。


単純であっさりとした罠だが、確認を怠れば、どれだけ深い階層に落とされるかわからない。

床の裂け目から下を除けば、遥か先に明かりが見える。


「シューター・・・それも、恐らくは最下層への」


何処までも迷宮は悪意に満ちている。



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