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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
氷結龍討伐編
265/395

闘牛その三

地下二階層は、一階層の複雑な迷路と一変して、単純な十字路構造。

ここに昼間のような明かりがあれば、対面の壁まで真っ直ぐに見通せる。

しかし、この構造自体が恐るべき罠であることを、アイシャは経験から知っている。


「シャアリィ、必ず、私の後ろを少し離れて歩くんだ」

「通路が交差している部分には、様々な罠が仕組まれている」

「一瞬、遠心力と眩暈を感じたなら恐らくはターン・フロア」

「まぁ、言葉で言うよりも経験した方が早い」


前を進むアイシャが通路の交差点に差し掛かる。

シャアリィは未だ交差点の前だ。

瞬間、前方に向かって歩いていたはずのアイシャの身体の向きが、一瞬にして左方向に変わっていた。

人間の知覚の隙を突く、瞬きよりも短い時間で起きた怪奇現象。


「こんな風に強制的に無自覚に近いまま、身体の向きを変えられる罠」

「それ以外に不都合はないが、二人が同時に交差点のフロアに乗れば、めちゃくちゃなマッピングをする羽目になる」

「地味だけど厄介な罠なんだ」


シャアリィの背に嫌な汗が流れる。


「一人が乗って床が回転しても、もう一人が残っていれば、その位置関係でどちらにどれだけ回転したかが分かる」

「その上で正しいルートに先に乗った方が下りれば、後から乗る方も迷わずに正しいルートを進める」

「面倒だけれど、ターン・フロアの罠がある以上、進行速度は遅くなる」


シャアリィは首肯で了解する。

だが、それだけではなかった。


「シャアリィ、あの交差点の中央にある小さな穴が見えるかい?」

「まぁ、見えなくてもいい」

「私が見えればアレを踏むことはない」


「アレは落とし穴の目印だ」

「経年劣化で嚙み合わせが悪くなると、中央に穴が見えたり、開閉扉の僅かな段差が見えるようになるんだ」

「交差点のフロア全体が消えたように開き、一瞬で閉じる」

「迷宮の罠の中でも最悪に危険で質の悪い罠」


シャアリィは絶句する。

もし、アイシャのような卓越した斥候と一緒でなければ、こんな罠避けようもない。


「逆に中央が盛り上がっていれば、床の下から槍や剣が突き上げる罠」

「さすがに床全体ではなく、中央付近に集中して槍を置くことが多いね」


この迷宮の悪辣さにシャアリィの脚が震える。


「でもね、こういう罠だらけの場所は、魔物も少ないんだよ」

「罠に引っ掛かるのは、冒険者だけじゃないってことだね」

「だから、焦らず、慎重に進もう」

「こんな罠に引っ掛かる私じゃないさ」


二人は、そこから少々長い時間を掛けて、慎重に周囲を観察しながら、歩を進める。

魔石のひとつも手に入らない徒労の時間。

複雑な迷路よりも、さらに複雑な進行ルートをアイシャの見立てで乗り越え、やっと下層への階段を見つけた時には、シャアリィは緊張で汗まみれになっていた。


「こんな下らないモノ、ほんっと、良く考えるよね」

「迷宮の設計者とか、魔道の研究者って、碌でもない奴ばっかり!」

「こんな大掛かりなモノ作るくらいなら、頑丈な研究室作ったほうが全然マシでしょ」


シャアリィの怒りは(もっと)もだと、アイシャも思う。

極めて初見殺しに近い、死の交差点。

迷宮というものの恐ろしさを垣間見る。


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