闘牛その二
右耳の迷宮はフランコと共に融合個体の魔石を取りに潜ったことがある。
これが、もしも、左耳の迷宮だったならば、また、あの厄介な魔物と一戦やる可能性もあっただけにアイシャは内心、ほっとしている。
あの魔物の魔石の価値は非常に高い。
だが、フランコに黙って闇狩りをすれば教会との関係にも皹をいれることになるだろう。
勿論、この狩りが終わった後で、フランコと共に狩るならば、吝かではない。
このグリーンノウズには珍しいレベル百相当の魔物だけに、見逃す手はない。
今は目先の狩りのほうが重要だ。
地下一階層から、悪質なトラップ、ゾンビィとスケルトンの群れという手荒い歓迎を受けるのは、予め覚悟していた。
迷宮の壁に反射し、途切れることのない雑多な足音も、最早慣れたものだ。
今回のフォーメーションは、アイシャが前方を殲滅、シャアリィが同じく後方を叩く。
三叉路では、一度、シャアリィがアイス・ウォールで侵入を防ぎ、数がまとまって処理をするのが困難になれば、五カウントのキャノンで一掃。
通路の途中、通常の階段とは異なる鋭角に設置された階段は、安全地帯としての機能があることを知る。
その領域はゾンビィやスケルトンの索敵を妨害する効果があるのだろう。
仮にこのような場所がなければ、非常時には迷宮のメンテナンスをする教会関係者も相当の負担や犠牲を強いられるのだから、あって然るべき、とも言える。
ここまでで道中のやっと三割。
幸いなのは、他の魔物と違いスケルトンやゾンビィは、魔石を抉る必要がないことだ。
これだけの数を相手にした後で、魔石を抉って採集するなど、冗談ではない。
「シャアリィ、魔力の残存は?」
持久戦では無類の性能を誇るアイシャは、呼吸すら乱れていない。
だが、体力においては、街娘とほぼ変わらないシャアリィは、長時間歩くだけでも疲労が蓄積する。
それに加えて術式選択、行使、状況判断という集中が重なれば消耗は大きい。
「現状、七割ってとこ」
「それより、体力がやばい」
シャアリィは肩で息をしながら、チョコレートの包みを開けて、それを口に放り込む。
「でも、まぁ、想定通り」
「こうやって回復しながらなら、階層移動前には全快に出来るし」
今回の行軍は、シャアリィの負担が大きい。
とは言うものの、これ以外の方法は見当たらないのだ。
大出力のキャノンで吹き飛ばしても、新手は次々に現れる。
それならば、なるべく小さな出力で、敵を殲滅しながら移動するほうがいい。
シャアリィの魔力が戻るまでの間、二人は暫くお喋りに興じる。
「巨人の骸って、どんくらいデカいんだろうねぇ」
シャアリィが気になっていたのは、やはりネームド。
「セロニアスの文献で読んだんだけどね、動物にしろ、魔物にしろ、最大でも十メートル前後が一番強いらしいよ」
「それより大きなものは、結局、自身の大きさや重さが足を引っ張るらしい」
「そりゃあそうだよね、身体が倍になれば、重さは四倍なんだから、筋肉を動かすにも、そのために必要なエネルギーも、効率は悪くなる」
「クジラみたいに、浮力がある水の中ならいざ知らず、陸上ではデカけりゃ強いってわけじゃないさ」
とは言うものの、やはり、質量というのは、それだけで脅威だ。
そして、数はそれ以上の脅威。
これから戦うタウロスは、オーガとほぼ同じ体格。
そしてそれがゾンビィならば、クリティカルヒットのような偶然の一撃で倒れることはない。
あくまで、『ぶっ壊す』以外に他はない。




