黒いバインダー
その街は聖職者の巡礼地。
その迷宮はアンデッドの巣窟。
そこにある教会は、アーシアン連合国西地区の最高権威教会。
白い壁と青い海、緑風と熱砂、生者と死者。
伝説の魔人マーヴェリック・エルゴ・ダインの故郷。
・・・
念のためにと立ち寄ったグリーンノウズの冒険者ギルド。
お宝発掘とばかり、シャアリィはギルド掲示板の伝票を漁る。
二人の到着に遅れて、相変わらずのアイリーンがカウンターに立つ。
「あら、何時かのお嬢さん達・・・あああああ!」
「レリットランス踏破して、名有り二つ討伐したっていう」
「白銀のアイシャと琥珀のシャアリィ!」
へへへと揃って頭を掻く二人。
扉を開けっ放しの冒険者ギルドには、三人の他に誰もいない・・・否、奥からごつい男が現れた。
「よう、はじめまして」
「ここのギルド・マスター、ブラットン・ジョンソンだ」
「よろしく、ネームド・キラーズ」
ドレッド・ヘアにサングラス、二メートル程の身長、筋骨隆々の身体。
まだ五十手前であろう張りのある声。
「その掲示板、ろくなもんねえだろ」
「お前たちになら見せてもいいぜ、本物の依頼ファイルってやつをよ」
「そっちにあるようなガキの使いより、ちょっとはマシなのもあるぜ」
あーあ、言っちゃった、という顔で、アイリーンが呆れる。
シャアリィも呆れながら、
「そりゃ、そんなことしてたら冒険者もよりつかなくなるよー」
「見なよ、この閑散としたギルド」
「ここの経営どうなってんのって不思議に思ってた」
ジョンソンは呆れる二人を気にもせず、
真っ黒に日焼けした顔、サングラスの奥にある青い瞳で、シャアリィを凝視する。
「ほんとにまじで、お前らがネームド倒したのか?」
「超キュートじゃん、チャームの術式溢れちゃってんじゃん」
アイシャが溜息をつきながら、汚物を見る目でジョンソンを眺めた。
「おい、汚い目でシャアリィを見るな」
「不愉快だぞ、ギルマス」
そう吐き捨てられても、痛痒もなく、今度はアイシャを凝視する。
「セロニアスってのは武勇だけじゃないんだな」
「こっちも結構いい女じゃん」
アイリーンは、どうでもいい話に耳を貸すこともなく煙草を吸い始めた。
シャアリィもアイシャも理解した、こいつはダメだと。
それでもさっき、気になる言葉を言っていた。
「本物の依頼ファイルってなんだ?」
ようやく話の本題とばかりに、ジョンソンが分厚い一冊の黒いバインダーを奥の金庫から持ってきた。
「ようするに、お前たちが好きそうな、レアな魔物や物騒な魔物の情報だよ」
「なんと中にはネームド指定もあるぜ」
シャアリィが訝しむ。
「他の冒険者に隠す必要なんてないでしょう?」
舌打ちをしながら指を左右に動かして、ジョンソンはシャアリィの言葉を否定した。
「こんな所に冒険者なんぞやりにくるのはイカれてるか、本物かのどっちかだ」
「イカれたやつでも、死なれりゃあ手続きってもんをしなくちゃならない」
「それに、本物が来て、根こそぎ持ってかれてみろ・・・それこそ、ギルド畳まなくちゃならなくなるだろうが」
「俺はまだまだ定年まで長いんだ」
「女房子供養わなくちゃならねえ」
随分としみったれた話に、二人は呆れた。




