研鑽の旅
たったひと夏。
そこにいなかっただけで、沢山の変化が起きていたレリットランスに別れを告げ、アイシャとシャアリィの大周回の旅路が本格的に始まった。
次に立ち寄るのは、どれ程先になるのかわからない。
百五十レベルのアイシャが、二百レベルに達するには、質は勿論、量に関しても、相当厳しいことになる。
少なくとも今までより何倍も強い相手と戦い、そして、それを絶え間なく。
最初の目的地であるグリーンノウズでは、アイシャのレベルに匹敵する魔物は、数えるくらいにしかいない。
それこそ、あのザグレブホーンのような大殺戮をしなければ、ひとつたりともレベルアップは見込めない。
その次の目的地、エンダーベルトでは逆に、一日一体仕留めるのが精々という超級のゴーレムが相手だ。
シャアリィにとってはゆっくりと動く只の的だが、アイシャにとってゴーレムは天敵、その理由は尋常ではない斬撃への耐性。
アイシャの鵺斬が名匠ミヤマの特級刀剣であろうと、物理相性という壁を飛び越えるには至らない。
イルオールドでの戦闘は、主にワイバーンを狩ることになるだろう。
その群れの危険度は時に二百を超える。
ここから始まる研鑽の旅は、かいつまんだだけでも、並みの冒険者が武者修行で出来る範疇を軽く超えている。
それを基本的に被弾なしでやろうと言うのだから、狂気ここに至れりだ。
だが、ひとつの希望をアーシアンで二人は見た。
『受難の聖女、リーシャ・セロニアス・アビス』の存在だ。
どんな無茶苦茶な方法を使ったのかは知りようもないが、天下無双に近いと思っていたシャアリィをも怯えさせ、戦いにすらならないと言い放つ彼女。
しかも、シャアリィよりも年若くして、その実力を身につけたということは、アイシャやシャアリィが決して至れない領域ではないという事実を物語る。
・・・
「アイシャ、シャアリィ、もう行くのか?」
すれ違う顔見知りが皆、声を掛ける。
「ああ、また帰って来るよ」
と、アイシャは別れの拳を当て、シャアリィは何時ものようにくるくると回る。
レリットランスでのミッション、
『幸せの補充を満タンにする』
は、無事完了し、また、あの十一日間の旅程を経て、ならず者の吹き溜まりの街へと向かう。
秋の高空には大きな雲もなく、吹き抜ける風に季節を感じながら、キャラバンは進む。
心の負債が軽くなり、代わりに空いた大きな隙間。
それは何時も、二人に、
『旅をやめて静かに暮らせ』
と、甘い誘惑を囁いてくる。




