それぞれの幸せ
討伐劇の宣伝効果もあり、ファイヤー亭には長蛇の列が出来た。
露店の玩具売場では、アイシャの剣、シャアリィのステッキ、エドワードの十字架が品切れ。
誰が何処に許可を出したのか謎の商品だが、祭りだからということで御目溢しされた。
暫くの間、子供たちの間で『踏破者ごっこ』が流行った。
そうやって遊んだ子供たちも、何時か世間の世知辛さに気付いて大人になるのだろう。
安息日。
エレナとナッチェを連れて、シャアリィとアイシャは『黒猫のテラス』で、お茶を楽しんだ。
「レリットランスの街は好き?」
最早、問うまでもない質問だったが、ナッチェとエレナは満面の笑顔で答える。
「今でも夢を見ているみたいです」
「縁もゆかりもない私達にこれだけのことをして頂いて、こんなに幸せでいいのかなって・・・」
エレナが言葉にすれば、ナッチェも、
「どうすれば、この幸せをみんなにも分けてあげられるかが、課題です」
「時折、何か別のこともしなきゃって思うけれど、まったくわからないのです」
アイシャはナッチェの頭を撫でて答える。
「きみ達が元気でいれば、それだけで周囲が暖かくなるよ」
「きみ達が幸せでいるだけで、少なくとも私達は十分だ」
「誰かを幸せにするだけが全てじゃないのさ」
シャアリィも同意する。
「私、人助けなんて思ってなかったよ」
「私はアイシャを笑顔にしたかっただけ、だから、気にすることじゃない」
エレナは少し悲し気な顔をして、シャアリィとアイシャに問う。
「まだ、ドラゴンと戦うつもりですか?」
「ここで一緒に暮らしたらみんな喜ぶと思います」
「それなのに、また、命懸けの旅なんて・・・」
ナッチェがエレナを叱った。
「お二人には、お二人の幸せがあるんだよ、お姉ちゃん」
「それに戦わなくちゃいけない理由、それは私達が口を出せることじゃないよ」
「覚悟だけ、強さだけで、スタチューに挑めるわけないって私は思った」
「だから、そんなことは言ってはいけないのです」
あの討伐劇を見て、そんなふうに思える程、ナッチェは成長したということだろう。
エレナは、妹の叱責に素直に応じた。
「そうね、ナッチェの言う通りね」
「私達は日々をちゃんと生きて、もっと、幸せにならなくちゃね」
アイシャが、ナッチェに告げる。
「何時か、旅が終わったら、此処にまた帰って来る」
「その時まで、エレナを、アレックスを、オルチェを、エドワードを頼んだよ」
「ナッチェは賢いんだから、そのうち、自分にあった何かを見つけるさ」
「それまで、みんな仲良くしててね」
アイシャが右手を差し出すと、ナッチェはそれを両手で握り返して、
「任されました」
「心置きなく、旅を続けて下さい」
アイシャとシャアリィは先に席を立ち、知人へのチョコレートの配送手配をする。
『英雄の席』で、黒猫姉妹は少しばかり寂しくなった。




