両想い
ファイヤー亭の客たちは、シャアリィとアイシャに気を使い、夜が更けると早々に席を立った。
客足が途切れたことを確認し、アレックスは少し早めの店仕舞い。
少々酔いの回ったシャアリィがエドワードに絡む。
「エドワード、そろそろ、舌が回ってもいいんじゃない?」
それを頃合いと見た、アイシャが、
「少し、エレナ借りてもいい?」
と、アレックスに問う。
おう、いいぜという即答のアレックスに対し、オルチェは小さなため息をついた。
「今日は、おみやげがあるんだー」
と、シャアリィが自分とアイシャのスーツケースを開く。
「えっと、ナッチェは私と身長同じくらいだから、こっちね」
「エレナはアイシャが使ってた方、胸廻りがきついと思うから、オルチェに直してもらって?」
空いているテーブルに広げたのは、夏に仕立てたドレスだ。
「生地が夏用だから、着られるのは春の終わりから、秋の始め頃までだね」
アイシャが自身の薄い胸を撫でおろしながら、
「私には少し緩かったから、エレナのサイズにも合わせられると思うよ」
と、自虐的なことを溜息交じりに零す。
エレナは、ナッチェにドレスを見せて、
「こんなに綺麗なドレスを頂いたよ」
「アイシャさん、シャアリィさん、何時もありがとうございます」
「一目で気に入ってしまいました」
嬉しそうに目を細めるエレナの耳元で、シャアリィが囁く。
「好きなんでしょ?エドワードのこと」
思わず口を抑えて顔を赤らめ、エレナの息が止まる。
そして視線をエドワードに向けると、エドワードは照れ臭そうに頭を掻いた。
それがどういう意味であるかは言葉にするまでもない。
「俺も、エレナのこと気にしてた」
「でもさ、やっぱ年も離れてるだろ・・・それに俺は今、忙し過ぎる」
「あんまり構ってやれないんだ」
エドワードの言葉で、耳を萎ませたエレナの横で、アイシャが口を開く。
「今、忙し過ぎる、だけよ」
「これから人手も増えて治癒院の運営にも余裕が出来るのは、それほど先のことじゃない」
「そうなったら、エレナはどうしたい?」
エレナは、アレックス、オルチェ、そしてナッチェの顔を見て、
最後に自分の胸に手を当てて目を閉じる。
「私は、エドワードさんと、お付き合いしたい、と、思っています」
「でも、このお店で働き続けたいとも、思っています」
「両方なんて都合が良すぎるかもしれないけれど、でも、そうしたい」
「それが出来るなら、もっと一所懸命働きます」
アレックスが厨房の中で、酒瓶の蓋を開け、ふたつ盃を取り出して、手慣れた手つきで酒を注ぐ。
その一つをオルチェの前に置いて、
「オルチェ、お前の頑張りが実を結ぶ時が来たんだよ」
「俺達もエレナとエドワードを祝福しようぜ」
アレックスが掲げる盃に、同じように盃を手にしたオルチェが、こつりと当てた。
「まぁ、なるようになるし、あんた達が来る前は、夫婦でやってたんだ」
「アタシたちのことなら、心配いらないよ」
一人取り残されたナッチェが、
「えー、えー、えー、お姉ちゃん、エドワードさんと結婚するの?」
「うわー、私も玉の輿狙ってたのに・・・うわー」
どうやら、ナッチェの変貌は、思春期ということらしい。
婚約という形でエドワードとエレナの関係は落ち着くことになった。




