本物の救済
エドワードが多忙で時間を取ることが出来なかった為、シャアリィとアイシャは、治癒院を少し見学してから帰ることにした。
「さて、アタシ達は店に帰らなくちゃね」
「こういう時、エレナとナッチェがいてくれて本当に助かるよ」
「二人が来てくれてなかったら、アタシは過労でここに入院さ」
エレナが耳を少し揺らして、オルチェに返事をする。
「ご主人と女将さんは、本当にエドワードさんと仲がいいですよね」
「お役に立てて何よりです」
「それに、今、こうして幸せでいられるのも、ご主人と女将さんのおかげ」
「何でも手伝いますよ」
実はオルチェも少しばかり察している。
しかし、十九才のエレナと、三十五才のエドワード・・・上手く行くのだろうかと心配もする。
それに嫁ぐにしても、ナッチェの所在についても考えなければならない。
二人とも手放すとなれば、さすがのオルチェも寂しくなる。
だから、つい、エレナに問うのを躊躇ってしまっていた。
・・・
「うっわー、これ、みんな患者さん?」
「・・・二十三人も、待ってるんだけど!」
シャアリィが小声で、アイシャに囁く。
アイシャも困惑しながら、
「本来なら治癒院に来たかったひとって、こんなにいるんだね」
と、隠されていた需要に驚く。
ふと、支払いのカウンターを見れば、実にユニークな光景が目に入ってきた。
職人ギルドからの査定人が、持ち込まれた品に価格をつけている。
カウンターの上には、『物品支払い査定』という風変わりな看板が下がっていた。
「あれか・・・ナッチェの言ってた『現金以外での支払い』って」
アイシャは暫くそれを眺める。
「野菜?果物・・・魚!」
「小麦の袋に、鍋、あはは、武具、テント、防水布、本・・・」
まるで雑貨店のように様々な品が取引されて治癒の代金に充てられる。
「補助金申請、未納証書カウンター?」
「要・身分証明」
様々なギルドや、領主府と連携して、分割払いや補助金の申請が出来るカウンター。
どうやら利子はなく、手数料だけが上乗せされるらしい。
「このアイデア考えた人、天才過ぎない?」
このシステムを導入されたら、既存の治癒院はひとたまりもないだろう。
しかし、もうレリットランスの医療改革は始まってしまった。
多くの治癒院は吸収合併の上で、このシステムの導入を急がなければ退路はない。
医療価格の適正化を促し、可処分所得を増大させ、さらには需要の予測というこれまで出来なかったことを実現した上で、古い慣習が蔓延ることで失ってきたものに歯止めをかける。
アネモイの指揮下で行われる医療改革の旗頭として、踏破記念治癒院は大きな可能性を持っている。
当然ながら古くから営んできた治癒院は、教会に救済を訴えるだろう。
だが、教会にしてみれば、広く多く人が救われ、信者が増えることのほうが利益になる。
だからこそ、エドワードに銀枠純金十字を与えたのだ。
そして、アネモイが掲げた美談。
それこそが教会が最も欲している人心を集める術であることは言うまでもない。




