踏破記念治癒院
立地こそ教会の隣という繁華街から離れた場所だが、その建物は総合治癒院に相応しい大きなものだった。
『踏破記念治癒院』
エドワードの他、五名の治癒術師が勤務し、夜間の診療も行っている。
院長であるエドワードも、当然のように夜間診療に加わる。
治癒院の経営は、エドワードの指示の下、商人ギルド、職人ギルド、領主府で行われている。
最初はのんびり小さな治癒院をするつもりだったエドワードだが、治癒院の実態を知るうちに怒りと義憤が芽生え、この治癒院の設立に至った。
完治する見込みのない患者を生かさず殺さず多く抱えるほうが儲かるという治癒院界隈の常識。
高額な代金を支払えないため、治癒院に足を運ぶこともなく、ひっそりと亡くなる老人、子供。
移住したばかりで現金の手持ちの少ない入植者の不安。
金持ちが湯水のように医療資源を使い、流行り病では庶民に薬が届かない現状。
掘り下げれば問題は山積みで、さすがのエドワードも諦めかけた。
そこに助け舟を出したのが、オズワルド・ハーベイに代わって、新しく領主に就任した、元アーシアン貴族院上院議員のアネモイ・シェルフ・ザカートだった。
彼女は、『狼のアネモイ』と恐れられた、智謀知略の経済学者出身の女傑。
そんな彼女がこれからの五十年を見据えた時、医療の発展は人口増加の大きな力になると確信し、エドワードに資金提供を約束したのだ。
『慈善に感銘した』、という美談を添えて。
「エドワード!」
そこにいたのは、白衣の袖をまくりあげた紳士だった・・・。
一瞬目を合わせたものの、エドワードは明後日の方を向いたまま、こちらに来ない。
その理由をシャアリィが目敏く見つけた。
「おいおい、会っただけで泣くなよ」
誰よりも会いたかった二人にいきなり会ったら、そりゃあ泣く。
「来てたのか・・・悪いが飯の時間終わっちまったから、夕方、アレックスのとこに顔出す」
「良かったら来てくれ」
そっけない邂逅。
それでも、アイシャとシャアリィには十分だ。
「ちゃんと髭剃ってた・・・わらう」
「エドワードって、ちゃんとしたら、結構ハンサムじゃん」
シャアリィがにやにやしながら、感想を述べると、アイシャは、
「うん、白衣恰好いいね」
「悪漢スタイルもいいけれど・・・ねぇ、気付いた?エドワードの胸元」
そう、そこに聖職者の印である、銀枠純金十字がぶらさがっていたのだ。
シャアリィは周囲を見渡して、
「そりゃあ、こんだけのものを形にしたんだから、『聖職者』に、相応しいでしょ」
アイシャも、頷く。
「そうだね・・・正直、話に聞いただけでも凄いって思ってたけれど」
「コレを見れば当然だね」
片付けが終わったらしく、院長室からオルチェとエレナが顔を出す。
「おや、シャアリィ、アイシャ、まったく、あんたたちは何時も突然・・・」
手荷物を放り出して突進ハグは流石にしないらしい。
「おかえりなさい、アイシャさん、シャアリィさん」
「エドワードさんの治癒院が、こんなにすごいことになるなんて思ってなくて」
「人手が揃うまで、お手伝いすることになったんです」
その表情に、シャアリィとアイシャは察してしまった。
エレナは、エドワードに恋をしている、と。




