贈り物の活用
真新しかった看板も強い日差しや雨に晒されれば、やはり色褪せる。
但し、飲食店の看板というのは少々色褪せているくらいのほうが、貫禄も出て立ち寄る気持ちになるものだ。
『ファイヤー亭』
シャアリィとアイシャが冒険者ギルドを素通りするのは、不思議なことでもなんでもなく、ザック・パーティ残党一味の本拠地であるこここそが目的地と言っても過言ではない。
「たっだいまー、シャアリィ戻りましたぁ」
すぐに反応したのは、『耳あり小』ことナッチェだった。
どうやらエレナはお使い中のようだ。
「おおおお!おかえりなさいませ!」
「お茶ですか、ご飯ですか、それとも・・・まだ陽が高いですね」
誰かがナッチェの教育に悪い影響を与えているようだ。
「おお、みみなし!・・・と、耳ありも」
「同時に入って来いよ・・・なんで、わざわざタイミングずらすんだよ」
アイシャが頭を掻きながら、
「あはは、ただいま」
「あれ?オルチェとエレナは?」
珍しく素面のアレックスが、
「ああ、もうすぐ昼だから、エドんとこ」
「うちも繁盛してるんだが、あっちは繁盛を通り越して戦場」
「飯の合間に片付けやらするんで、手伝いに行ってるよ」
驚くべき事実を知らされて、シャアリィとアイシャは顔を見合わせる。
「エドワード、まさか、自分で客、否、患者を作ってるんじゃ・・・」
シャアリィが物騒なことを言い出し、アイシャは吹き出しながら、
「単純な人手不足だろうが、それにしても、どうして、そんなに流行ってるのかな?」
ナッチェが笑顔で、解答を言う。
「エドワードさんの治癒院は、貧しいひとでも診て貰えるからですよ」
「治療費は現金以外でも支払いが出来るんです」
「それだけじゃなくて・・・レリットランスに十年以上暮らしてる方なら、ご本人だけでなく、家族の方にも基金から補助が出るようにエドワードさんが財団を立ち上げたんです」
アレックスが種明かしをする。
「お前さんたちの迷宮踏破年金な、あれが財団の原資になるんだよ」
「領主もエドの慈善に感銘を受けて、当面の資金を提供してくれたってわけだ」
「耳あり耳なしも、エドも、ほんっと、とんでもねえ奴だな」
「この街の医療は、アーシアンにも負けない先進的なものになったんだとよ」
シャアリィとアイシャは絶句した。
まさか自分たちの贈り物をそんなふうに活用してくれているとは、考えもしなかった。
シャアリィとアイシャは見つめ合って涙する。
「ザック・パーティは最高だな」
と、アイシャが言えば、シャアリィはアレックスに微笑む。
「そのとばっちりなら、笑うしかないね?」
図星を付かれてアレックスは、少しばかり、鼻を赤くした。




