ホーム
この門を背にしたのは、夏の始まる前。
一つの季節を旅で過ごし、シャアリィとアイシャは懐かしのホームたるレリットランスの街に戻ってきた。
決まり事の挨拶で門に向かって大きく手を振れば、槍を掲げて応える衛兵たち。
この街の人々にとってシャアリィとアイシャは、特別な存在。
皆が二人のことを知っている。
それは勿論、シャアリィ、アイシャ、エドワードが迷宮の踏破者だからだ。
道を歩けば、そこら中から声が掛かる。
そんなシャアリィとアイシャが真っ先に向かうのは、言うまでもない『黒猫のテラス』。
街一番のカフェテラス。
「いらっしゃいませ・・・おお、店長、英雄の帰還です」
「アイシャ様、シャアリィ様、お待ちしておりました・・・こちらへ」
そんな出迎えをされれば、嬉しい反面、恥ずかしくなってしまう。
案内されるのは勿論、オープンテラスの『reserved』のプレートが掲げられた席。
「ふう・・・」
と、揃って背筋と両手を伸ばしてリラックス完了。
「微妙な気温だけど、喉が渇いてるから・・・カシス・ソーダ!」
シャアリィが勢いよく注文を決めるとアイシャはお嬢様モードで、
「私も冷たいものがいいね」
「これから、まだ、挨拶回りもあるし、グレープフルーツ・ジュースにしよう」
「それと、チーズ・スフレ」
ケーキを忘れていたシャアリィが慌てて、『もうひとつ』と、追加する。
注文を終えて、周囲を見渡せば、所々が新しくなっていることに気付く。
レリットランスは新しい行政組織も機能し、ついでとばかりに焼失した一帯が区画整理されたようだ。
アイシャは自分の為した成果を誇るわけでもなく、ただ、嬉しそうに、
「こんなに早く街が整って・・・みんな頑張ったんだね」
と、言い、シャアリィはにやけながら、
「誰かがちゃんと先手を打ったからだね」
と、アイシャの頭に手を伸ばす。
アイシャは思う。
この街はシャアリィにとっては新しい故郷のような場所だから、出来るだけのことはしたいんだよ、と。
二人は目を閉じて、このテーブルで交わした様々な言葉を思い出す。
シャアリィの術式、ザック・パーティ、ガーゴイル殲滅戦、最深部突入、黒猫姉妹の受け入れ、レリットランス踏破、他にも沢山の記憶が溢れてくる。
何時もポケットには、チョコレートかキャラメル。
それがあったからこそ、辛い戦いにも、悲しい思いにも、負けなかった。
沢山笑って、沢山泣いて、ここまで辿り着いた。
穏やかな秋の風がオープンテラスを吹き抜ける。
来月になれば落ち葉も舞いはじめ、それが過ぎれば冬が来る。
だらだらと部屋に籠って過ごした季節も懐かしい。
シャアリィは、幸せな時間の多くを過ごした、この街が大好きだ。
ここには、大切な仲間もいる。
――― ホーム、帰るべき場所。




