ロザリーの意図
繊細にして、味わい深く、滋養に満ち、胃を満足させる。
シャアリィは思う、割烹の料理はまるでエンチャントだと。
極め付けは、野菜と魚介のテンプラだった。
ソテーでもなく、フライでもなく、香ばしく瑞々しい味わい。
澄んだ油の中で小気味良く弾ける音が食欲をそそる。
堪能しつくして、お会計。
まさか、一回の食事で金貨を支払うことになると思わなかったが、それに値する料理であったとシャアリィは思った。
アイシャとシャアリィの所持金に比すれば、大した出費ではないが、この贅沢に慣れたら大変なことになると、少し冷えた夜風の中で二人は顔を見合わせて笑った。
さて、次はバーで件の髪飾りについて考える番。
アイシャが指さしたのは、黒猫の看板の店。
思わず二人は笑い合い、看板一つでバーを決めた。
高級店の並ぶ通りと二筋離れれば、そこは庶民の街角。
黒猫の意匠ではあるものの、あの黒猫のテラスとは恐らく縁もゆかりもない酒場。
隅の方に二人掛けのテーブルがあり、ここぞとばかりにその席に座る。
「おや、美人さん二人でこんなお店で一杯なんて勿体ない」
「まぁ、ゆっくりしていきなよ」
中年の女性店主が、愛想よく二人を出迎えた。
アイシャはジントニック、シャアリィはキール、デザート替わりのつまみには、チョコレートを頼んだ。
ロザリーとの馴れ初め、利益相反、そしてリーシャの髪飾り。
それが示すものの一つは、リーシャが首謀者であるという仮定。
だが、その仮定では、何故、どのように、姉のパーティを襲撃させ、それで何を得るのかが、全くわからない。
アイシャとしては、リーシャに恨まれていた実感すらない。
リーシャが協力者としてマッカーシー・パーティ襲撃に加担していたという場合でも、動機はやはり見えてこない。
シャアリィは別の角度を模索する。
リーシャが、何らかの弱みに付け込まれ加担させられていたならば、動機というものは『弱み』に移り、アイシャへの怨恨が消える。
しかし、ロザリーの手にリーシャの髪飾りが渡った経緯は、不可解としか言いようがない。
シャアリィが閃く。
「ロザリーを中心に考えよう」
「何故、髪飾りを持ち、何故、アイシャにそれを渡し、何故、それがあのタイミングだったか」
「ロザリーはアイシャという人物を評価した上で、リーシャに会わせる」
「そういう役目を請け負っていたのだ、と、私は思うんだ」
アイシャは瞠目する。
「そうか、リーシャに会わせるべきでない人物を会わせることが利益相反!」
「つまり、リーシャは私に会いたがっている、と」
「それならば、リーシャがロザリーに髪飾りを託した、と、言える」
そこから先は、やはり闇の中だ。
もう、リーシャと会い、問うしか、方法はない。
懸念すべきは、折角、和解したシャアリィの気持ちだ。
大周回の旅程を決めて、これからという時に・・・。
シャアリィはアイシャの苦悶など、気にもせず、告げる。
「約束したでしょ?」
「もう、拗ねたりしないって」
「もしかしたら、リーシャが窮地に立たされてるかも知れない」
「私は、会うべきだと、思うよ」
今までのアイシャならば、済まない、と、言っただろう。
今のアイシャは、違う言葉を口にする。
「ありがとう」
と。




