宝石箱
陽が傾いてくれば、さすがに袖なしのドレスでは寒い。
二人は宿に戻ると、普段の旅装束に着替え直し。
不意にアイシャの手に、ロザリーから渡された小箱が触れた。
「そう言えば、アーシアンについてから開けろ、と」
アイシャが手に持つ箱は、何処からどう見ても宝石箱だ。
あのロザリーの持ち物とは思えない。
「開けちゃう?」
と、アイシャの肩越し箱を眺めていたシャアリィが唆す。
アイシャは少しだけ考えてから、箱の蓋をそっと開けた。
「おや・・・可愛らしいアクセサリだね」
「髪飾りかな?」
シャアリィが口に出した通り、それは小さな紫色の髪飾り。
アイシャの髪の色に合わせたような、蝶を模した意匠。
「おお、アイシャ、着けてみたら?」
「きっと似合うよ?」
シャアリィの声にびくりと反応したアイシャの口から明かされたのは、この髪飾りの本来の所有者の名前だった。
「これは・・・私のものではないよ」
「妹、リーシャに私が贈ったものなんだ・・・」
「でも、どうして、これをロザリーが・・・」
アイシャは、ロザリーとの馴れ初めからの会話を振り返る。
「・・・そういう、こと、なのか・・・」
シャアリィには、訳がわからない。
「どういうことなのさ?」
「私にもわかるように、手短に、ね?」
ふうと、アイシャは大きな溜息を吐いてから、
「手短に話したいのは山々だけれど、少々、長くなるから」
「それに私自身、落ち着きたいし、私の中の疑問符も増えた」
「もう、シャアリィと仲違いもしたくないし、夕食後、バーでゆっくり説明させてくれないかな」
アイシャにそう言われれば、シャアリィも当然応じる。
「そっか、なんだかワケありな感じね?」
「ちゃんと話してくれるなら、絶対に拗ねたりしないって約束する」
「じゃあ、ごっはん、ごっはん」
夜風に備え、少しだけ厚めのコートを纏い、二人は食事に出掛けることにした。
シャアリィのブーツの音が、機嫌の良いままであることをアイシャに教える。
ほっと胸を撫でおろし、アーシアンの繁華街へ向かう。
アイシャのポケットの中の宝石箱。
リーシャの髪飾りの意味することは謎に満ちている。




