花束を
正午を告げる大聖堂の鐘が響く。
キャラバンの馬車は予定通りにアーシアンに到着。
ザグレブホーンに向かった時より、少しだけ増えた荷物を纏め、アイシャとシャアリィは馬車を降りる。
アーシアンからは、ナゼルバ行きを除けばキャラバンの午後出立便はない。
つまりは、またしても、この街で一泊することになる。
「荷物を置ける宿屋を見つけて、そこから花屋さんだね」
何がそんなに楽しいのだろうか、と思うくらいに、何時もシャアリィは賑やかだ。
幸いにして前回泊まった宿に空きがあり、ダブルベッドの部屋が予約出来た。
小奇麗に掃除された部屋は、まだ新しく、布団も柔らかい。
「じゃあ、せっかくだから、着替えようか」
アイシャの提案で、夏祭りの時に新調したドレスに着替える。
この日を逃せば、恐らく、着る機会もない。
レリットランスに着いたら、黒猫姉妹にプレゼントするつもりだから。
ほんの少しばかり季節外れのノースリーブに風が心地良い。
日付は十月になり、アーシアンでは秋の暦。
道行く人目を一身に集め、並んで歩く二人の美少女が、冒険者だと思う者は誰もいまい。
「大きな花束を五つ」
「えっと、真ん中には白くて大きな薔薇を入れて下さいな」
「予算は別に気にしませんので、豪勢に!」
シャアリィのざっくりとしていて、気前の良いオーダーに店主の老婆は目を丸くする。
「余程、大切なひとに手向けるものなんだね?」
「任せな、とびっきりのやつを作るから!」
アイシャは、二人の遣り取りに目頭を熱くする。
何故、アイシャが一凛の薔薇に拘っていたのか・・・
それは、まだ、道半ば、誓いを果たした時にこそ、パーティの墓標を花で埋め尽くすと決めていたからだ。
でも、シャアリィの、『今、出来ることを惜しまない姿』を見て、自分の新しい在り方に気付く。
アーシアン教会の広い墓地の片隅・・・
二人は、マッカーシー・パーティの墓標の前、膝をつけて祈りを捧げた。
「アイシャを守ってくれて、ありがとう」
「あとは私に任せて!」
「必ず、私達が仇を討つから」
シャアリィの少し舌足らずな可愛い声が、アイシャの心に沁みる。
「聞いただろう、マーシー、イルマ、サンドラ、リュウガ、べリアス!」
「この子が、私の新しい相棒だ」
「次に此処に来る時は、多分、決戦前の誓いの時」
「それ程長く待たせるつもりはないよ」
「シャアリィからの花束、私からの酒、仲良く楽しんでくれ」
ありったけの中から選んだ、色彩豊かな大きな花束。
その中心には、最高の白い薔薇。
そして、その脇にマッカシー・パーティの酒盛りには欠かせないジンのボトル。
風もなく、穏やかな秋の日差し、今日は珍しく、あちらこちらに人影が見える。
皆、大切なひとを偲び、花を手向け、祈りを捧げている。
無駄な自己満足、かも、知れない。
それでも、人は祈る。
そうしなければ、時の重さに磨り潰される記憶、罪悪感に心が渇く。
風化するまでの証だとしても、其処に何も埋まってなくとも、いい。
――― それがなければ、あまりにもひとの人生は短い。




