まだ足りない
アイシャの提案で、ナセルバの市場を見るための時間を作ったが、生憎の雨に予定を変更し、来るフローズン・ドラゴン討伐の最初の作戦会議を行った。
シャアリィのレベルは、予定よりも伸びていない。
否、あまりにも上首尾に事が進んだせいで、経験値を稼ぐ時間が不足してしまった。
アイシャはフローズン・ドラゴン討伐を目前にして提案する。
「シャアリィ、良く聞いてね」
「道筋は二つある」
「ひとつは、このまま予定通り、討伐に挑む」
「もうひとつは、更なる経験値を習得して、万全の状態で討伐に挑む」
アイシャは小さなため息をついて、
「あの個体は、推定レベル百五十」
「今の私と同等レベルだ」
「そこにレベル百五のシャアリィが加われば、理論上は討伐可能」
「討伐出来なかったとしても、初見のように一方的に狩られる状況には陥らないだろう」
「しかし、私の見立てが完全とは言い切れない」
「魔法攻撃の密度や、氷結範囲からの推測でしかないし、当時、私はレベル百二十」
「レベルに開きがあればある程、正確な見立てと掛け離れる」
「絶対に負けられない戦いである以上、地力そのものを底上げする迂回を選択したい」
「最低ラインとして、私のレベルは百六十五、シャアリィのレベルで百二十五以上」
シャアリィは、アイシャの選択を支持した。
「自殺行為ではなくなったけれど、まだ、勝機は薄い」
「そういうことね」
「でも、アイシャ、それで足りると思う?」
「ヒーラーも、タンクもいない、そんなペアで挑むならば被弾なしが前提でしょう?」
シャアリィは、『三日月』討伐で、役割分担の重要性を知った。
アイシャは頷く。
「せめてエンチャントが充実していれば、今のままでも飛び込む価値はあるんだけどね」
「そう、シャアリィの言う通り、足りてないんだ」
「被弾なし、エンチャントなしなら、私は二百、シャアリィは百五十」
「百六十五と百二十五というのは、あくまで攻撃が通る、そういう目安と、私達の持っているスキルの加点」
アイシャが討伐前の準備も必要だ、と。
「私の単独潜入による、敵個体のレベル識別」
「『三日月』討伐の時にやった、斥候だね」
本来、そこで提案されなければならないのは、パーティの増強だろう。
しかし、それが無茶であることも、また、痛い程に知っている。
エドワードの気持ちが理解出来る。
あのパーティ・メンバーには頼りたくない、と。
シャアリィは、現実の厳しさも既に知っている。
自身が遠慮なしに砲撃に集中出来るのは、パーティ・メンバーに守られていたからだ。
イザベラやロザリーが危険を背負っていたからこそ、あの狩りが戦術として成立した。
そして、次の相手にはシャアリィの必殺の一撃であるフローズン・キャノンさえもがレジストされる恐れのある化け物中の化け物。
最大火力を封じられたまま、ジャミングで敵の術式を封殺し、アース・ランスとストーン・バレット、アイシャの物理攻撃で削り殺すなどという夢想にも近い戦術しかないのだ。
恐らく戦闘時間は今までのものより格段に長く、それに耐えうるだけの魔力も備えてなければならない。
シャアリィは、自身のしかめっ面を両掌で軽く叩き、決断をした。
「悔しいけれど、まだまだ足りないね」
「次は何処の街に行こうか?」
まだ、幼ささえ残る顔に翳りはない。




