新しい旅の始まり
ほんの数か月。
それでも振り返れば、ザグレブホーンが思い出深い場所になることは間違いない。
壊れ掛けていた絆は、揺るがない絆に変わり、アイシャはパーティ・リーダーも経験した。
氷結耐性の獲得という目的を達した上で、呼称有り討伐者としても名を刻んだ。
知らなかった様々なことを知り、幾度も危機を乗り越え、足早に過ぎた充実の日々。
今、こうして別れの時が来て、二人は、名残惜しさを噛み締める。
イザベラ、ロザリー、そしてアンソニー。
見送る者こそ多くはない。
毎日、戦いに明け暮れていたのだから、これも又、リザルト。
「アイシャ、これを渡しておくよ」
「アーシアンに戻ってから開く、それだけは約束してもらいたいね」
別れ際、ロザリーが宝石箱と思われる箱をアイシャに手渡した。
シャアリィは少しばかり中身が気になったが、アイシャに贈られたものである以上、追及することではないと、忘却することにした。
「シャアリィ・・・俺、きみに礼を言うのを忘れていた」
「ありがとう、きみに届く程に強くなれる自信はないけれど・・・」
「アイシャさん、シャアリィをよろしくお願いします」
「俺は・・・俺は・・・」
アンソニーは、それ以上を言葉に出来なかった。
「アイシャ、シャアリィ、達者でな」
「何時でも遊びに来るがいいさ」
「きみ達に置いてけぼりにされないよう、私も励むとしよう!」
イザベラは戦士の顔で別れの言葉を告げた。
シャアリィは思う。
これがパーティの絆というやつか、と。
珍しく感傷的になっている自分が、パーティ・メンバーの一人であったことを実感する。
アイシャさえいれば世は事もなし、それだけだった自分に芽吹く小さな郷愁。
それは、ザック・パーティの者達に抱く感情に似ている。
快適な旅客専用車を選ぶよりも、適度に揺れるキャラバンの馬車が新たな旅の始まりには相応しい。
ナセルバに向かって流れ続ける人、物、金。
それでも、こうして見渡せば、商品の買い付けに向かう商人の姿に気付く。
遥か昔に開墾されたザグレブホーン。
この街が故郷の者は、いずれは此処に戻ってくるのだろうか。
願わくば、その日まで、迷宮の灯が続きますように。
・・・
ナセルバが近くなれば、その喧騒は大きくなる。
勿論、今回も、ここで一泊しなければならないが、今、こうして隣で眠るシャアリィの存在が確かなものである以上、それほど憂鬱な気分にはならない。
逆に言えば、ザグレブホーンに向かっている道中、どれ程シャアリィが辛かったのかを思えば、自分のことながら弁解の余地もない。
「そりゃあ、シャアリィだって怒るよな」
小さな声の独り言が零れた。
南に向かう馬車に揺られれば、残暑はまだ厳しい。
しかし、日が落ちれば流石に夜風は秋のそれに近づきつつある。
さすがに二度も素通りでは味気ない。
一日、ナセルバでの滞在を楽しみ、市場で秋用の衣料を見繕うのも悪くない。
夏中狩りに勤しんだ、自分達へのご褒美も必要だ、と、アイシャは思った。




