夏祭り
終わる夏を惜しむように、ザグレブホーンの街で夏祭りが開かれる。
偶然にもそれは八月二十八日、シャアリィの誕生日だった。
仲直りの待ち合わせでは、普段着で消沈したアイシャも、今回はドレスを新調した。
シャアリィと御揃いの百合の花をモチーフにした煌びやかなミニドレスの衣装だ。
ただでさえ、目立つ二人が十全な化粧と衣装を纏えば、誰もが振り返るのも自然なことだろう。
あの日、治癒院に担ぎ込まれた二人は、次の日には揃って食事をしていたというのだから、そのタフさにはさすがのアイシャも、シャアリィも、開いた口が塞がらない。
アイシャの氷結耐性の完全取得には、今一歩足りず、迷宮での狩りでそれを補うことを決めた為、シャアリィとアイシャの滞在は、一月程伸びることになった。
・・・
「やぁ、やはり一際目立つね」
「ご機嫌如何かな」
歌劇役者のような少し癖のある声は、イザベラのものだ。
貴族に相応しい金刺繍の入った漆黒のドレスは、プラチナ・ブロンドの髪を際立たせ、何時にも増して気品に満ちている。
その隣、少し後ろには相変わらず聖職者の白い聖衣を纏い、化粧気のないロザリーが佇む。
シャアリィはその場違いな姿に、
「こんな日でもドレスを着ちゃダメなの?」
と、問えばロザリーは当然とばかりに返す。
「私の装備、衣服、日々の糧には市井の方々から頂いた寄付が少なからず使われている」
「己の贅沢の為だけに使えるはずがないね」
「例え、イザベラがドレスそのものを私に贈ったとしても、私は袖を通すわけにはいかない」
「一介の修道女でも、司教でも、それは変わらないよ」
イザベラは何度も首肯し、補足した。
「これでも、以前よりは融通が利くようになったんだ」
「冒険者として稼いだ分で、過度な贅沢にならないものはちゃんと買ってる」
陽が沈み、山鳥亭の前にも露店が出された。
少しばかり腕を上げた冒険者が、はぐれのハイランド・オーガを狩れるようになり、夏季限定ではあるものの、オーガのステーキが十分に流通するようになったからだ。
「イザベラの説教が効いたな」
と、アイシャが笑う。
「さぁ、シャアリィ、露店のアクセサリを見に行こう!」
「今日はきみの誕生日なんだから、気にいったものがあればプレゼントするよ」
アイシャが、シャアリィの髪を撫でれば、シャアリィはアイシャのしっぽを愛でる。
「私達も、今日ばかりは責務や奉仕から解放されてもいいだろう」
「花火までは、まだ時間もある」
「少しばかり街歩きしようじゃないか」
イザベラがロザリーを誘えば、ロザリーもそれに従う。
「祭りの時くらい、孤児院の子供たちにチョコレートを振舞いたい」
「菓子店巡り付き合ってくれるね?」
イザベラは当然とばかりに、ロザリーの髪を撫でる。
「きみと共に歩むならば、何処へでも」
アイシャが、宣言する。
「我々のパーティは、此処で解散だ」
「皆、よく頑張った」
「また、何時か、何処かで」
四人は代わる代わる握手を交わし、見つめ合い、別れを惜しんだ。




