百錬のイザベラ
討ち取った。
そう思った矢先、イザベラの身体が黄金のオーラに包まれる。
それはリバイバル、起死回生、超常の回復スキル!
敵の持っていた武具を手に、戦乙女が立ち上がる。
「ふふっ」
「なかなかにしっくりくるじゃあないか」
「ブラント・マスタリー」:鈍器攻撃補正
「マッスル・アップ」:筋力向上
「ウィンド・ウォーク」:移動速度向上
「ヘル・フォーカス」:致命率向上
「サモン・ピクシー」:妖精召喚
「ブリード・エフェクト」:出血付与
「アグレッシブ・スタンス」:防御力減少、攻撃力上昇
「フォートレス」:痛覚遮断
「ヘイスト」:攻撃速度向上
髪留めは外れ、鎧は砂に塗れても、その瞳の殺意に翳りはない。
エンチャンターですら習得の難しい補助術式の乱れ咲き。
百錬の名に偽りなし!
屠るべき敵は、傲慢にして苛烈な殺戮者、ロザリー・イグシエンヌ!
最早、その命運はこの手に!
イザベラから放たれた青い肌、赤い目の妖精が、死の詩を謡う。
それはロザリーの聴覚を阻害し、僅かながら平行感覚を奪う。
そして疾走から放たれる小メイスは、ヘイストの加速と出血付与。
擦過傷さえもが出血を伴う威力は、鈍器の形をした剣。
ロザリーがイザベラに勝つ為には、被弾を免れることが前提となり、それは即ち、メイスを放棄したまま徒手空拳で、戦う以外にない。
枷をつけたままで遣り合うには、イザベラは危険過ぎる。
互いに歩を進め、向かいあい、視線が交錯し、インファイトが始まった。
致命の一撃を避け、己の一撃を叩き込む、それが全ての獣じみた殴り合い。
鈍器を持つイザベラのリーチがロザリーのそれを凌ぎ、鼻先を掠める。
ただ、それだけでざっくりと真一文字に傷が開く。
ロザリーもやられてばかりではない。
ロザリーは長い脚を生かし、足払いから、踵落としに至るまで、様々な蹴りを繰り出す。
北方大教会仕込みの体術は、修道女を殺戮者へと変貌させたのだ。
致命に至らない傷が次々に二人の身体に刻まれてゆく。
死線の上を綱渡りする二人の運命を分けたのは『痛覚遮断』。
まるでゾンビィのように殴られても、蹴られても、イザベラに苦悶は見えないが、イザベラのスマッシュ・ヒットを受ければ、ロザリーは気力で耐えなければならない。
ついにロザリーの心が折られ、その五体を地に投げ出した。
もう、何も遣り残しも、言い残しも、ない。
イザベラは一人、天を仰ぎ、亡き夫への鎮魂を捧げる。
「アラン、私は騎士になったんだ」
「これ程の兵を討てる程に強くなったんだ」
「でもね・・・私は、やはり・・・友を殺せない」
「これで許してくれないか」
まるで荘厳な絵画のように、雨は止み、灰色の雲の隙間から日差しが照らす。
「神よ・・・私は、許されても良いのでしょうか」
「まだ、生きても良いのでしょうか」
ロザリーの問いに答えたのは、神ではなくイザベラだった。
「いいよ・・・いいに決まってるじゃあないか」
「さぁ、これで私達は紛れもなく友となった」
「ロザリー、心から感謝するよ」
イザベラの無骨なガントレットが、ロザリーの細い指と絡み、彼女達の決闘は終わりを告げた。




